8,「この法廷、燃やすことにした」。
ふいに天井が開いて、クレーンゲームのクレーンのようなものが降りてきた。殴殺済みの裁判官の死体を回収し、天井裏へと引き上げていく。
ふむ、と眺めていたら、こんどは床が開いた。
そこからせりあがってきた新たな椅子には、なんと裁判官が座っていた。先ほど殴殺したのと、まるごと同じ姿形の。
「どうなっているんだ?」
イチゴはといえば、法廷画家に自分を描かせているところ。「わたし、もっと胸が大きいですよ」などと注文しながら。
おれはそんな案内係を小突いて、裁判官を指さした。
「同じのが、戻ってきたぞ」
「ふむ。意外ではないですよ。異界法廷の中ボスモンスター〈裁判官〉ですからね」
「え、モンスター枠なのかアレ」
「各法廷に配置されている裁判官モンスターは、異界法廷を仕切る四柱が一角、〈最高裁判所長官〉が無限に増産できると聞いたことがあります」
「無限か。付き合ってられるか」
おれが背を向けて歩き出そうとしたところ、廷吏【終わらせる者】どもがやってきた。≪万里の長城ダンジョン≫に侵略してきたタイプより、より強力そうだ。
「「「ゴゴゴゴゴ! 北条尊人、逃がさんぞ!!」」」
イチゴ、真面目に解説。
「法廷に配置されている【終わらせる者】は、タイプⅡなので、戦闘力もUPです」
「知るか」
おれの後ろでは、二体目の裁判官が木槌をガンガンやって、
「法廷侮辱罪だぞ、北条尊人! 《法廷拘束》発動!」
とたん法廷中から鎖がのびてきて、おれとイチゴを縛り付け、空中に持ち上げた。
「なんだあいつ。裁判官のくせにスキルも使えるのか」
まぁモンスター枠のようだしな。それに地球でも冒険者は普通にスキルを使えるわけだし。そこまで驚くことでもないのだろうが──
拘束されながらも、イチゴは別のことに注意を向けていた。ついに完成した法廷画家による、イチゴの人物画に。
「こら、こら。わたしはこの絵の3倍は美女ですよ。舐めてるんですか。ね、タケト様?」
なぜかこれに裁判官が反応した。木槌をガンガンやって、
「なんという悪辣なクレームだ! 案内係イチゴを、悪辣クレーム罪で有罪とする!」
「なんですかそれ! まず起訴しやがれです!」
一方、【終わらせる者】たちもうるさい。
「「「ガガガガ! 罪深い北条尊人とその連れ、ガガガガガ!」」」
おれは溜息をついた。本当に、溜息案件とはこのこと。
「わかった。この法廷を燃やすことにした」
「そうです、やっちまうのですよタケト様! あ、でも、まずはわたしを脳内に戻してから──」
《壊滅獄炎》を発動。
「ちょっとタケト様! 可愛いイチゴちゃんも燃えるんですけど、こらぁタケット!」
何兆度もの火炎が法廷内で渦をまき、裁判官を燃やし尽くし
「侮辱罪だぁぁぁああああがぁぁぁぁ」
【終わらせる者】たちも燃やしに燃やして
「ガガガカガガガ溶けるゥゥゥゥウギャァァアアア」
ついでに、なんの罪もないような気もしないでもないが、法廷画家(たぶんモンスター枠)も、ノリで燃やした。
あとイチゴの虹色の髪にも火がつく。
「きゃぁ、わたしの自慢の髪が──」
瞬間、イチゴの髪に食らいついていたおれの《壊滅獄炎》の火炎が、勝手に消火される。
そして、虹色の髪一本も焦げてさえいなかったのだ。
「あ、大丈夫でした」
……レインボー髪、恐るべし。
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