7,裁判官殴殺までの新記録樹立✌。
多次元世界を突破していき、異界法廷に到着。はじめから電車ではなく、タクシーを使えば良かったな。
しかしさすが多次元を走っただけあって、タクシー料金が半端ないものだった。
「手持ちがあんまりないから、女児的種族の給与から支払っておこう」
きっかり支払ってタクシーから降りようとしたら、ドロシーに止められた。
「尊人、チップを渡し忘れていますよ」
イチゴが感心した様子で、
「さすがドロシーさん。チップを支払う文化で育っただけのことはありますね」
「別にチップ払うのはいいけどさ……地球を二度ほど滅ぼしかけた元称号《魔神》に注意されるのは、なんか癪だ」
「尊人、何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよー」
異界法廷は、移動型の巨大城塞都市だった。というのも東京ドーム千個分くらいの城塞都市に、巨大な蟹型の脚がついていて、時速32キロで移動している。
たまには案内係として説明のイチゴ。
「異界法廷の正式名称は、異界法廷都市です。この都市内には、556の法廷があります。そして、『多次元世界』案件を裁いているのです」
「なんでおれの痴漢冤罪が、『多次元世界』案件になるんだ。ふざけてるのか」
「タケト様は、ただの人間ならともかく、今や〈無神〉と対等に戦う称号《魔神》ですし。あらためて痴漢冤罪を裁くことになったのでしょう。あ、ちょうど出廷時間ですね」
腕時計を見るイチゴ。と思ったら、高級そうなスマートウォッチだった。この案内係、人間社会に馴染みすぎ。
「まてよ。いまおれの痴漢冤罪についての出廷時間? なんて凄いタイミングなんだ」
「まぁ多次元世界を行く都市ですから。時空間にも干渉できます」
「では尊人、しばらく別行動をとりましょう」
そう言ってドロシーが行ってしまったので、おれはイチゴとともに第224法廷に向かうことにした。この第224法廷で、おれの痴漢冤罪の裁判が行われるそうなので。
くだんの法廷に入ると、見た目は日本のと大差なし。いちばん高みの見物な席に、偉そうな裁判官が座っていた。
このとき、おれの《未来視》が自動で発動。
この《未来視》、自分では発動をコントロールできず、今回のように思いがけないときに、勝手に発動する困ったスキル。
そして《未来視》の中では──。
つまり少し未来では、裁判が終わり、すでに裁判官が判決を言い渡しているところだった。
でっぷりと肥っている、この体長3メートルはある偉そうなオッサンが。
木槌をガンガン叩いてから、もったいぶった口調で、
「判決、被告・北条尊人を有罪とする。被告人は、山の手線において痴漢行為を働いたこと、これは疑いようのない事実である。有罪! 有罪!」
《未来視》が解除された。今の時間に戻る。そして。
怒りの跳躍。
「誰が有罪だボケ! 冤罪だろうが!」
口をあんぐりとあける裁判官。
「な、なんだお前はぁぁあ!!ここは神聖な法廷だというのにぃぃぃいぃぃぃい!!」
怒りの右パンチ。
間抜けな裁判官の頭蓋骨を粉みじんに吹き飛ばす。破裂した脳味噌が天井に、べったりとこびりついた。
イチゴが熱心に拍手しだす。
「さすがタケト様! これまでの裁判官殴殺記録は『法廷に入ってから58秒』でした! それを50秒も速く更新しましたよ! 新記録の樹立です! やりましたね! 感動のオリンピックレコードです!」
いや、別に嬉しくないんだけど。
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




