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6,タクシーがあるじゃないか。

 


 おれもゲートから【輪舞の中央駅】を覗き込んだ。


 おお、確かに『とりあえず虐殺』が起きている。ドロシーの乗車を阻止しようとした武装駅員たちが、血祭りに上げられている。


 武装駅員たちは呪術兵器を装備していたが、無双モードのドロシーの敵ではない。あー、生首が飛んできた。


「ドロシーも、乗車拒否されたからって、あんなに血みどろモードにならなくてもいいのに。やっぱり育児による睡眠不足のせいかなぁ」


 イチゴが腕組みしながら、しみじみと言う。


「【輪舞の中央駅】の武装駅員に採用されるのは、戦闘種族だけなのですがねぇ。A級ダンジョンのボスくらいには強いのですが、ドロシーさんの前ではやっぱり雑魚枠ですね」


 そのとき、おれは閃いた。


「まてよ。いまのうちに、別ルートで異界法廷には行けないものか? そうしたらドロシーを連れて行かずに済む。多次元世界の危機も回避できる」


「はぁ。別ルートもないことはないのですが──ドロシーさんにあとで怒られますよ」


 おれはフッと笑った。


「案ずるな。妻の扱いかたは、よく知っている。おれは旦那だぜ」


「タケト様。笑みがこわばっていますけど」


 いったん≪万里の長城ダンジョン≫に戻る。

 と、女児的種族たちが大騒ぎしていた。


「ミルクです!」

「ミルクを飲ませるです!」

「乃愛ベイビーにミルクを」

「ところでボスタケトや奥方様が死んだりしたら、この乃愛ベイビーが雇い主になるです?」

「そうです。乃愛ベイビーが未来の雇い主です」

「いまから媚びるです」

「赤ちゃんのうちに媚びりつくのです」

「よっしゃです!」

「まずはミルクを出すのです!」

「我々は女児なのでミルクは出せんです」

「くそったれです!」


「……」


 まず女児的種族たちに粉ミルクの作り方を教えるところから始めた。


「……で、イチゴ。『異界法廷』行きの電車は、【輪舞の中央駅】からしか出ないのか? というか、もう電車が出ちゃったんじゃないか?」


「発車時刻は、多次元世界標準時刻で15分後ですね。また異界法廷には、瞬間移動系スキルでは行けないようにはなっていますよ」


 ふむ。ドロシーは電車が来るまで、ちゃんとホームで待っているだろうか。


「ドロシーが異界法廷に到着する前に、全てを終わらせるとしよう」


「そしてドロシーさんに、先をこしてしまったことへの土下座謝罪ですね。分かります」


「そうそう土下座謝罪、いやしないから。そもそも電車とは違うルートで、先回りできるんだろうな」


「ご安心ください。タケト様が女児的種族たちに粉ミルクの作り方を教えている間に、呼び出しておきましたからね」


「呼び出した?」


「多次元世界を走行できる、特別仕様のタクシーです」


 空間にゲートが開き、見た目は変哲のないタクシーが飛び出してきた。

 さっそく後部座席に乗り込み、行先を言う。


「『異界法廷』までよろしく」


 タクシーが発車──したとたん、急ブレーキが踏まれた。前方に、絶世の美女さんが現れたので。しかもお怒り中の。


「あ、ドロシー」


 ドロシーが歩いてくる。おれとイチゴで席をつめて、右隣にドロシーが座る。


「……【輪舞の中央駅】のホームで待っているかと思った」


「多次元タクシーを呼んでから、わたくしを呼ぼうと思っていたのですね。つまり、いま呼ぼうと? そうでしょう、尊人?」


「そう、まさしく、そうそう」


 イチゴがおれの耳元で囁いてきた。


「タケト様。多次元世界が滅びないように、ちゃんとドロシーさんを制御してくださいよ。一度はドロシーさんに圧勝し、カード化までしたタケト様なんですからね」


「う~む」


 あのときは、ただの敵だったからぁ。しかし今や、妻である。世の夫というものは、奥さんには勝てないと相場が決まっている。ただでさえ、赤ちゃんを育てている奥さんだもの。


「なるようになるさ」


「タケト様が楽観的なときは、ロクなことにならないんですよねー」




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