5,妻を説得する無理ゲー。
【終わらせる者】たちが激痛でのたうちまわる。
それを眺めながら、おれは素朴な疑問を口にした。
「ところで異界法廷って、どこにあるんだ?」
乗り込むにしても、場所を知らないことには。ググっても出ないだろうし。
ここで案内係として、イチゴが久しぶりに役立った。
「多次元世界にある【輪舞の中央駅】から『異界法廷』行きの電車が出ます」
「無駄に名称だけはカッコいい駅だな」
「駅弁が有名ですね」
「いきなりJapan感だしてきたな」
ドロシーが指を鳴らすと、【終わらせる者】たちが燃えだす。ただの火炎ではない。物体を完全焼却させるスキル《絶大なる業火》。
あっという間に【終わらせる者】たちが灰となり、女児的種族たちがなんか踊り出した。
「さすが奥方様です」
「奥方様最強説です」
「タケトも頭が上がらんです」
「真に媚を売るべき相手です」
「お尻の尻尾を振るです」
「尻尾を振って可愛さアピールです」
「わたしたち尻尾とか生えてないです」
「あうっ」
「あうっ」
「あうっ」
「あぅ」
ドロシーが『ウォーミングアップはこれで終了』という顔で、
「尊人、では出発いたしましょうか」
この展開を恐れていた。しかし、まずは確認しておこう。
「え、ドロシーも行くのか?」
「わたくしが同行して問題でも?」
「……いや、別に」
ドロシーから少し離れて、イチゴが囁いてきた。
「タケト様。ドロシーさんの同行は止めてくださいよ。異界法廷が滅んでもわたしの知ったことじゃないですが、ドロシーさんが絡むと、多次元世界の全てが消し飛ばされかねんですよ」
イチゴの指摘ももっともだが、そう簡単な話ではない。
「まてまて。妻を説得するのが、世の旦那たちに課された試練といっていい。そして、それは外科医の手術に似ている。プロの腕が必要だ。まぁ見ていろ」
「おおタケト様」
おれはドロシーのもとまで戻り、
「なぁ。お前まで同行したら、乃愛の面倒は誰がみるんだ?」
ドロシーにとって、自分の目に入れても痛くない存在。それが愛娘の乃愛。
乃愛の身を心配すれば、《万里の長城ダンジョン》に残ると言ってくれるだろう。
ところが、
「尊人が連れてきた子たちがいるではありませんか」
「……え、女児的種族?」
「はい。この子たちに、乃愛の面倒をみていただきましょう」
「女児的種族に? つまり、アレに?」
アレたちが、喜びの行進を始める。ハイホーみたいな感じで。
「奥方様からのご指名なのです」
「ご指名です」
「信頼を売っておいたです」
「これで将来も安泰です」
「ベビーシッターは任せるです」
「任せるです」
ショックだ。
「実の娘が可愛くないのか!」
「乃愛はすでに、自分の身は自分で守れる子です。わたくしと尊人の子なのですから。それに尊人が『女児的種族』と呼んでいる彼女たちは、ベデルギウス星系で生きるローギ人。知的種族の中でも、トップクラスの頭脳を誇る種族ですよ?」
「……アレが?」
アレたちは喜びの行進をしていたが、先頭が後ろにこけたため、ドミノ倒しの連鎖で転び出した。
「知的種族の中でもトップクラスの頭脳を誇る種族? 間違いじゃなくて?」
ドロシーが苛立たしそうに言う。
「妻が同行することに反対なのですか?」
家庭円満のコツとは、奥さんがブチ切れる前に折れること。
「いえそんなことないです。同行してくれて、幸せです」
「では、出発いたしましょう」
「うん、そうしよう」
ちらっと見たら、イチゴが白目。
暗たんたる未来を思っての白目。
そこまで悲観することはないだろ。
ドロシーだって、多次元世界を滅ぼすようなことはしないはず。たぶん。
一足先に、ドロシーが異世界ゲートを開いて、【輪舞の中央駅】に向かった。
おれは女児的種族(ローギ人?)たちに、『ミルクは人肌』と説明。
そうしていると【輪舞の中央駅】のほうから悲鳴が聞こえてきた。
ゲートから【輪舞の中央駅】を覗いたイチゴが、恐ろしいものを見た、という顔で。
「タケト様……ドロシーさんが、とりあえず虐殺しています」
『とりあえず虐殺』って、なんて文章だ。
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