2,【終わらせる者】がゴゴゴゴゴ。
「訴状なんか見なかったことにしよう」
異界法廷とやらから送られてきた訴状を、《火炎地獄》で燃やした。別にライターでも燃やせそうだったが、そこは盛大に燃やしてやったのだ。ざまーみ。
「あ、タケト様。そんなことをすると──」
瞬間、《万里の長城ダンジョン》そのものが揺れた。まるで地震が起きたように。しかし異次元にあるダンジョンに地震など起こらないはず。
ということは?
「なんだ、いまの揺れは?」
「タケト様、奴らが来ますよ。訴状を破棄した被告を罰するため送り込まれる、【終わらせる者】たちが。
《万里の長城ダンジョン》第1階層に転送されてきたはずなので、猛スピードで降りてきますよ。わたしたちが今いる、この最下層まで。もちろん狙いはタケト様です。ガクブルですね~」
と言いつつ、冷凍庫からガリガリ君を取り出して食べ出すイチゴ。
メロン味を……メロン味……イチゴ味ではなく……………………
「【終わらせる者】って、何者だ?」
「何者というか、種族ですね。【超人類】みたいな感じですよ。異界法廷を取り仕切る最高判事が造り出したのです。まぁ廷吏みたいなものですね。異界法廷に喧嘩を売った被告をしょっ引くのが努めです」
「それが降りてくると、ダンジョンまで揺れる衝撃なのか」
おれもガリガリ君を食べることにする。
やがて女児的種族たちが駆けこんできた。こっちに戻ってからは、《万里の長城ダンジョン》内に居住スペースを見つけてやったのだ。
「ボス!」
「タケトボス!」
「大変です!」
「やばいです!」
「なんか怖いオッサンたちが」
「攻め込んできたのです!」
「ロリコンかもです!」
「ロリコンはヤバいです!」
「天敵来るです!」
「落ち着け、それはロリコンじゃなくて廷吏だ。異界法廷から送り込まれてきた、【終わらせる者】という種族の廷吏」
意外なことに、女児的種族たちは【終わらせる者】を知っていた。
「あう、【終わらせる者】ですか」
「誰が訴えられたです?」
「あう、ボスが?」
「ボスのタケトが訴えられたです?」
「訴状を破棄したです」
「命知らずです」
「さすがです」
「【終わらせる者】たちの戦闘力は、【超人類】最強だったアンダルを凌駕します」
「攻撃力が138432500だった、アンダルです」
「惑星破壊レベルの一撃を誇ったアンダルです」
「あれより強いです」
「そんな【終わらせる者】たちを相手どるとは」
「さすがボスです」
「ところでガリガリ君、食べていやがるです」
「食わせろです!」
「食わせろです!」
「ガリガリ君をガリガリさせろです!」
「……好きに食べたら?」
「おお!」
「おお!」
「おお!」
「おお!」
「おお!」
女児的種族たちが冷凍庫に群がり、ガリガリ君の在庫をぜんぶ持っていった。
在庫補充したのはイチゴなので、半泣きになっている。
「タケト様……わたしが買い置きしていたガリガリ君たちが……あんまりです」
「女児的種族に見つかった時点で、もう諦めろという話だ」
ダンジョンを揺るがす地響きが、どんどん激しくなっていく。
【終わらせる者】たちが近づいてきているようだ。
「ふーむ」
「どうするのです、タケト様? もうじき【終わらせる者】たちが、この最下層にやってきますよ?」
「なんだろう。何か、大事なことを忘れている気がする」
「大事なことですか? 状況を整理してみます? タケト様が訴状を破棄したので、異界法廷が【終わらせる者】たちを送り込んできたのですよ。《万里の長城ダンジョン》を、この最下層めざして降りてくるのです。あの女児的種族たちも恐れるほどの敵ですよ」
「それは分かっている。だがもっと大事なことが、大事なことが──」
ついに【終わらせる者】たちが、おれたちのいる最下層に到着した。
凄まじい地響きを起こしながら──
【終わらせる者】というのは、全員が男だった。黒い服を着ていて、巨人なみにでかい。体長20メートルくらいか。
一斉に怒声を上げてくる。
「「「「「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!! 北条尊人は、ここかぁぁぁぁぁ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」」」」」
より激しく最下層が揺れる。
ハッとした。
大事なことを思い出した。
ベビーベッドを見る。
先ほどまで健やかに眠っていた赤ちゃん乃愛が──この地響きでついに起きている。
そして、いまにも泣き出しそうだ。
「まずいぞ、イチゴ! 乃愛が大泣きしたら──この地球が崩壊する!!!」
「タケット、なに赤ちゃんのこと忘れているんですか!」
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