1,タケト、訴えられる。
──黒鵜またはキウイの視点──
地球──某所。
「北条尊人! この屈辱は必ずや返してくれる! 3倍返しだぁ~!」
憤る黒鵜に、キャンディ舐めながらキウイが言う。
「イチゴは、ヨウナシの妹。【神に愛された案内係】の中でも特別。そんなイチゴが訓練した北条尊人には敵わない」
「いや、そんなはずはない! 最大の努力をもってすれば、突破できぬ壁はないのだぁぁ!」
実は黒鵜、『努力は勝つ』主義者だった。
そんな黒鵜が目をつけたのは、異世界。
北条と戦った異世界以外にも、異なる世界は多数ある。
「俺はこれから、武者修行の旅に出る! 複数の異世界を渡り歩き、必ずや北条を打ち倒す力を手に入れてくるのだ! キウイ、ついてくるか?」
「やだ」
「……なら独りで行ってくる!!」
黒鵜を見送ってから、キウイは案内係専用スマホで電話した。
相手は、〈案内係:オリジナル〉のヨウナシ。
「うちの黒鵜さんは、復讐に燃えている。しかし北条尊人には敵わないはず。このまま放置で、オーケー?」
[オーケーだよ、キウイちゃん。全ては【神臣人】のシナリオ通り]
「へぇ」
──主人公の視点──
「タケト様~、訴えられました」
「あっそう」
おれは《万里の長城ダンジョン》最下層で、力尽きていた。
乃愛の夜泣きのせいで、ここのところ睡眠不足だ。なんといっても、大地を破壊せんばかりの夜泣きなのだからな。
「いえいえ、タケト様。もっと反応してくださいよ」
「お前が誰に訴えられようと、おれの知ったことじゃない」
「いえ訴えられたのは、タケト様です。ほら訴状には、『被告・北条尊人』とありますし」
なんだって! このおれが訴えられた?
ふざけやがって。また冤罪をかけられたというのか!
「なんで訴えられたというんだ! 無実だ! 濡れ衣だ!」
「罪状は、ルーレットで勝つために大陸を傾けた件です」
「……あ、罪を認めます」
悪逆都市アザーズにあったカジノ店。そこの〈地獄の地獄のルーレット〉のイカサマを破って勝つために、大陸を浮かせて傾けたんだった。
「そのさいの被害が甚大ということで、訴えられましたよ」
「まてまて。誰がどこに訴えたというんだ?」
「原告は、〈紗球〉の管理者の神であるオットーさんですね。異界法廷に訴状を提出し、受理されました。それで被告であるタケト様にも訴状が送られてきたわけです。はい、これ」
「まてまて。新単語を連続で出しすぎ。えーと、まず〈紗球〉ってなんだ?」
「つい先日、タケト様が行ってきた異世界の名称でよ。というか、厳密にはその惑星の名前ですね。わたしたちのココが地球であるように、あそこは〈紗球〉というわけです」
「管理者の神って?」
「そのままの意味ですけど」
「じゃあ地球にも管理者の神がいるのか?」
「いましたけど、〈無神〉に殺されましたね。だから〈無神〉がダンジョン送りつけたりと、好き勝手やっていたわけです」
〈無神〉め、なんで〈紗球〉の管理者の神も殺しておかないかな。
「で、〈紗球〉の神というのが──」
「オットーさんです」
「そのオットーという神が、どこに訴状を出したって?」
「異界法廷です。今回のように異世界から侵略があった場合、訴える場所ですね」
侵略って、言いすぎだろ。
ちょっと〈紗球〉の大陸のひとつを持ち上げて、傾けただけだろ。
それを『侵略』って、また大袈裟な。
「だいたい、こんなに侵略されている地球は、なんで異界法廷に訴えてないんだよ」
「ですから、地球の神様はとっくに殺されているからですよ。だから〈無神〉は、地球の神だけは、自らの手を汚して始末したわけですね」
「……まって。まさか法廷に出廷しなきゃいけない流れ?」
「そういえば痴漢冤罪のときは、法廷で『僕はやってない!』って言わなかったんですか?」
「言ったけど有罪になったんで、職場も解雇されたんだろうが」
「あー、なるほど」
「……………………………」
「タケト様。なにやら熟慮黙考しているようですが」
「ああ」
「いまさらオットー殺しても、意味ないですよ」
くっ。すべては手遅れだというのか!
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