31,「あんたが100兆回分のパンチをしているとき、おれはあんたを1000兆回も殴っていたんだぜ」。
〈無神〉が、両手を打ち合わせた。
《宇宙破壊》のエネルギー奔流を、ハエを潰すように消してしまう。
おー、さすが。ちょっと感心した。
「借りパクだって? なんて鬼畜な発想だ。北条くん、君が魔神であるということを忘れていたよ」
イチゴが腕組みして、
「魔神として評価される点、しょぼくありませんか」
イチゴ、さてはお前、借りパクされたゲームを知らない世代か。
「北条くん。君がステータス∞を我が物にし、永久実装したことは理解した。しかしながら、それでも僕には勝てない。だがここで君を処分してしまうのも惜しい気がしてきたね。どうだい、僕の下で働くというのは?」
「あんたの下で働く? つまり、雇用されるということか?」
「まぁ、そうなるね」
「断る! 二度と雇用などされるか。痴漢冤罪で不当解雇されるような経験は、一度で充分。だいたい、おれはもう雇用されなくても、資産家だからな。アーダが賭博で大勝ちして、たっぷり稼いだし」
「あ、タケト様。そのお金は全部、アーダさんが持って行っちゃいましたよ。アーダさんが収納していましたからね。というか、アーダさんが賭けで勝ったお金を当てにしているとか、ヒモ道を究めすぎです」
「……まぁ、最悪は貨幣鋳造スキルがある」
「まて北条くん。僕が提供しようとしているのは、カネなどという詰まらないものではない。世界だ。たとえば、いま僕たちがいるこの世界を君にやろう。君が、僕の手下となるならば」
「いらん」
管理が面倒そうだし。
「なら仕方ない。僕のコントロール下にないのなら、君はただの危険要因だ。ここで排除させてもらおう」
〈無神〉の雰囲気が変わった。これは本気になったらしい。
「ヤバそうな予感、タケト様の脳味噌に避難です!」
脳内に飛び込んできたイチゴ。
〔久しぶりのタケト脳内ですね~。あ。ガスの元栓、あけたままでした。ふー、危なかったですね〕
〔お前、おれの脳内をどんなふうに改造しやがった?〕
〔タケト様、きますよー!!〕
〈無神〉の右手から、魚が飛び出てきた。空中を飛ぶ魚である。秋刀魚に似ている。
眺めていたら、ふいに消えた。
次の瞬間には、おれの腹から飛び出してきた。
ハラワタを引きずりながら。
〔なんだ、この秋刀魚は〕
ステータス∞の防御力を無視して、おれの腹を抉ってくるとは。
〈無神〉が、空飛ぶ秋刀魚を指さして、
「それは《殺人狂の魚》だよ。標的を殺すために生み出された魚だ。標的のステータスを無効化し、時には瞬間移動も行って攻撃する」
ふむ。さっきは、おれの腹内に瞬間移動してきて、抉りながら飛び出したというわけか。防御力∞を無効化しながら。
やるな、秋刀魚のくせに。
腹部の負傷を治しつつ、《殺人狂の魚》を狙い撃とうとした。ところが──
〔タケト様! 危いですっ!〕
瞬間移動して肉薄してきた〈無神〉のことか。
「さっきのお返しだよ」
至近距離から《宇宙破壊》を放ってきやがる。
こっちはそれをつかみ取って、握りつぶした。
〈無神〉はいったん距離を取ってきた。その肩に、秋刀魚じゃなくて《殺人狂の魚》が飛んでいく。
「北条くん、大丈夫かい? いま接近したとき、僕は1兆回、君を殴ったというのに?」
「そんなアホなことが、ぐっ」
顔面を殴られた感触。まさか。
「ぐぁぁぁあああ!!」
そこから襲いかかる1兆回分のパンチ。
それが終わったとき、しかしおれは、勝ち誇る〈無神〉に言ってやる。
「で、あんたは大丈夫なのか?」
「何がかな?」
「あんたが1兆回殴っている間に、おれはあんたを10兆回も殴っていたんだがな」
「ふっ。そんなバカなことが、ぐっ!」
〈無神〉の顔面に、一発目のダメージが発生したのだ。そして、そこから続く連打。
「ぐぁぁぁあああああああああ! まさか、こんなことが、うぉぉぉぉぉお!!」
10兆回分のパンチダメージが終わった。
しかし〈無神〉はフッと笑う。
「いいのかな、北条くん? 君が10兆回殴っていたとき、僕は君を100兆回も殴っていたというのに」
「おいおい。さすがに、それは馬鹿々々しい話で──ぐっ。まさか、そんなことが、ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!」
100兆回分のパンチを食らい終わったとき、おれは教えてやった。
「悪いがな、〈無神〉。あんたが100兆回分のパンチをしているとき、おれはあんたを1000兆回も殴っていたんだぜ」
「なんだと、ぐぉぉぉおお!!」
イチゴがあくびしながら言った
〔いい加減、ケリつけやがれです〕
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