30,無神が降臨。
俄王が発動したのは、必殺奥義《∞破壊》。
その拳が、おれの胴体に入った。
スキル名を鵜呑みにすると、ステータス∞を破壊するようだが。
ぐちゃっという音とともに、俄王の拳の骨が砕ける。
「オレ様の右拳がぁぁぁあ、きさまぁぁぁぁなんて頑丈なんだぁぁぁぁあ!!!」
「結局、名前負けなスキルだったか。防御力∞に負けたわけだし」
呆れていたところ──急展開。
俄王の体が砕け散り、再構築されていく。
やがてそこに現れたのは、ムダに美青年な男だった。しかも、なぜか上半身裸。どこのアイドルだ、お前は。
「誰得だ」
と、おれが冷ややかに言うと、
「わたし得です!」
がん見するイチゴ。
なんかこっちが恥ずかしいからやめなさい。
ふざけた美青年くんは、両手を握ったり閉じたりした。
「ふむ。瞬間移動のさい、雑魚の存在を上書きしてしまったようだね」
コイツ、上書き型の瞬間移動を使ったのか。
そのせいで俄王の肉体と存在が破壊されたらしい。気の毒な俄王。まったくいいところがなかったなぁ、アイツ。
「で、どちらさん?」
すると美青年くんは言うのだ。
「君の被害者だよ」
イチゴがおれの後頭部をはたいた。
「こらタケット。イケメンをいじめるとは何事ですか。謝罪しなさい、謝罪。わたしはタケットを、そんなふうに育てたは覚えはありませんよ」
「お前、虹色の髪のうち一色分だけ引っこ抜くぞ」
ここで美青年くんが挨拶。
「こうしてじかに会うのは、初めてだったね北条くん。僕の名は、〈無神〉だ」
あー。よく名前だけは聞いていた、〈無神〉か。ダンジョンを地球に送り込んできたり、【超人類】と戦争していたりと、何かと忙しい奴。
イチゴが唖然とした。
「うげっ。わたしのボスじゃないですか!」
そういや〈無神〉関連の記憶がないんだったか、こいつ。
〈無神〉が、ちらっとイチゴを見やって、
「イチゴ、〈案内係:オリジナル〉ヨウナシがよろしくと言っていたよ」
オリジナルということは、案内係の親玉か?
イチゴは腕組みして、不愉快そうに言う。
「ヨウナシ。記憶にはないですが、なんかその名前からは不快な気持ちがしますね。きっとロクでもない上司だったんでしょう。ね、タケト様?」
「お前が出来の悪い部下だったから説、も残っているぞ」
「タケット! 自分の案内係にその態度はあんまりですよ!」
〈無神〉をイケメンだなんだと持ち上げていた奴が、よくいう。
「タケト様、まさかこんなところでラスボス戦がはじまるとはですね」
「いや、まて。別に〈無神〉と戦うつもりはないぞ。おれはいま、オムツを取りにきたんだから」
〈無神〉に余計な情報を与えたらしい。エネルギー弾を発射して、〈天国のオムツ〉の入っている宝箱を破壊してしまった。
「あぁ、SSRアイテム〈天国のオムツ〉がぁ!!」
〈無神〉がニヤつきながら、歩み寄ってきた。
「さあ。これで僕と戦う気になったかな、北条くん?
しかし、君が僕に勝てるはずがない。君をステータス∞にしたのは、イチゴ。すなわち、僕の配下である案内係だ。
よって僕には権限がある。君からステータス∞を奪い取る権限が」
「なんだと?」
「本当は、もっと早くこうするつもりだったんだけどね。とにかく、君はやりすぎた。僕のダンジョンを全壊させるとは──まぁ、僕のかわりに【超人類】を仕留めてくれたのは、手間が省けたけどね。しかし、ここまでだ」
となりにいたイチゴが抗議する。
「タケト様から、ステータス∞を奪い取れるはずがないですよ!」
すると〈無神〉が言う。
「厳密には奪うのではないよ。返してもらうんだ」
「返す?」
「そうとも。ステータス∞は、僕が北条くんに貸したようなものだ。イチゴを経由してね。だからこうして──返してもらうのさ!」
〈無神〉が、おれの肩をつかんだ。なにやら光り輝く。
「ステータス∞の取り返し完了。これで君は、ステータスを失った。ただの人間に戻ったよ──うん、何をしているのかな?」
おれは〈無神〉の右手を取って、その小指を──へし折ってやった。
「痛っ! なにをするんだ、この非常識が! いやまて、なぜただの人間が僕の指を折れる? まさか、ステータス∞を取り返せていないのか!? 一体、なぜだ!? なぜステータス∞を取り返せない!」
「なぜか教えてやろう。ステータス∞は、お前からの借り物かもしれない。だが、取り返すことはできないぞ。なぜならステータス∞は──」
〈無神〉の腹に、《宇宙破壊》の塊を叩き込みながら──
「すでに借りパクしたからだぁぁあ! これが大和魂だぁぁあ!」
「タケト様、惚れなおしました!」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




