29,オムツの守護者:俄王。
イチゴが連続で転ばされ出す。
「ふぎゃっ、あぎゃっ、ぶぎゃっ、どぎゃっ、ふんぎゃぁぁあ!」
なんかコントっぽい。
で、笑っていたら、にらまれた。
「こらタケット!」
「すまん、笑えた」
ところが、こんどはおれが転ばされる。
イチゴが腹をかかえて、おれを指さして大笑いしてきた。
「ざまぁ、タケトさま、ざまぁ!」
「……」
とにかく、これは物理的に転ばされているわけではないな。
ステータス∞の防御力は、単にダメージを受けないというだけではない。よほどの衝撃でなければ、倒れることもないのだ。
ということは、何らかのスキルで『転ぶ』状態に強制でされているわけか。
なんだろう、無性にムカつく。
別にダメージとか食らうわけじゃないけど、ムカつく。
たとえるならば、深夜に隣の部屋から『夜の営み』声が漏れ聞こえているときのようなイライラ。
しかも、微妙に聞こえるだけなので、わざわざ騒音被害を訴えるほどでもないというイライラ。
転ばしてくるフロアボスを、通常の探索スキルで見つけられないのなら、もっと深いところにもぐって痕跡を辿ろう。
「イチゴ、また転ばされてろ。その間に、敵の居場所を探るから」
「わたしは生贄要員ですが、ぶぎゃっ!」
また転ばされだすイチゴ。笑いをこらえながら、痕跡をたどっていき──
ふむ、変だな。イチゴのそばにいるぞ。
そうか。このフロアボスは、霊体なのか。
「その正体をあらわせ、《発現》!」
瞬間、《転ばせ》スキルの持ち主であり、霊体として潜んでいたフロアボスの姿が現れる。
生意気そうな顔をした少年だった。
少年、まだ姿が露見されたと気づかず、バカ笑いしながらイチゴを転ばせている。
イチゴがハッとして、少年を指さした。
「ついに正体を現しましたね!」
「うわっ! なんでぼくの姿が──ひぃ、助けて! 命だけは!」
怯えた様子の少年を見て、おれは言った。
「安心しろ。おれはガキは殺らん主義だ」
「わたしは、やりますぜっ!」
イチゴさん、転ばされつづけていた怒り爆発。
斧を取り出して、少年(型モンスター)の脳天に振り下ろした。
ぐさり、ぶちゃり。
それから斧の連打モードに入るイチゴ。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!!!!!!」
ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。ぐさり、ぶちゃり。
ストロベリー、容赦なし!
「ふぅ。このわたしをコケにすると、こうなるのです。イチゴの名前は、伊達じゃないですよ」
「……長いあいだ一緒にいると、嫌な面が見えてくるものだなぁ」
その後もフロアボスどもをなぎ倒していき、ついに──というか、ようやく目的の第554階層にたどり着いた。
「やれやれ。ダンジョン攻略も作業化すると、飽きるものだな」
「面白かったのは、転ばせ少年くらいですね、タケト様」
「お前が斧でグロ殺した少年か」
「少年型モンスターですから、セーフです」
「絵的には、セーフ感の欠片もなかったけどな」
「ゼーロー、ですねタケト様」
「うざい」
ところで、第554階層にもフロアボスがいた。5メートルほどの巨躯を誇る、ヒト型モンスターが。頭部はトラで、全身をクリスタル鎧で包んでいる。武器は、戦斧。
ふむ。イチゴが転ばせ少年をグロ殺しした斧よりは、10倍大きい。
「我が名は、俄王! このフロアを統べるボスだ!」
「つまり、オムツの守護者か」
「……………我が名は、俄王! このフロアを統べるボスだ!」
イチゴが、おれの耳元でごにょごにょ言う。
「『オムツの守護者』という称号は嫌みたいですね。たぶん『オムツ』というところが気にいらんのでしょう。生意気なトラ顔です」
たしかに生意気だ。
なにが『オムツ』が気に入らんだと。
おれはそのオムツのため、異世界転移してきたんだぞ。
そして魔王を倒し、ステータス∞の同類と戦い、ダンジョン攻略してきたんだ。
「………………………くそ。近所のドラッグストアで買えば良かっただろ!」
「タケト様、いまさらですか!」
俄王が戦斧を振り上げる。
「よくぞ勇者よ、ここまで来たな!」
「いや勇者じゃないんだけど……」
「だが、貴様の幸運もここまでだ! 必殺奥義《∞破壊》を食らうがいい!!」
名前だけは強そうだが。
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