28,イチゴ:わたしたちはス〇×ド攻撃を受けています!
第2階層から下の階層も、フロアボスとの戦いが続く。
どのフロアボスも似たりよったりだったので、おれは自動作業モードに入った。
自動作業モードとは居眠りしていたら、勝手に体が動いてくれるというスキル。
かの、の〇太くんが大いに欲しがりそうなスキルである。
第78階層で、自動作業モードが止まる。
何か突発的なイベントが起きたときは、ストップするよう設定していたためだ。たとえば自動作業では撃破できないようなボスが現れたときとか。
または、イチゴがひっくり返っているときとか。
「どうしたんだ、イチゴ? そんなところで寝ている場合じゃないぞ」
「ち、違い、ま、す……これは……み……密室……殺……人。ぐへぇ」
そしてイチゴが息絶える。
え、マジで?
慌てて《医療スキャン》したところ、仮死状態だと判明。
イチゴを仮死化した犯人を見つければ、蘇るだろう。
ところで──周囲を見回すと、8畳ほどの部屋の中にいる。
ふむ。自動作業モード中の記録を見返すと、第78階層に入ったとたん、この小部屋に閉じ込められたようだ。
部屋には窓はなく、扉だけある。そしてその扉は、なんと内側から施錠されているのだった。
さらに仮死状態のイチゴが握りしめているのは──おお、この部屋の鍵ではないか!
おそらく、この鍵は特殊なもので、複製とかムリ設定に違いない。
つまり、イチゴは密室状態で殺された、じゃなくて仮死状態にされたのだ!
……いや、厳密にはおれが部屋内にはいるがね。ただおれは自分が無実であることを、知っている。すなわち、おれは容疑者から外れる。
よって密室確定。
真犯人による悪魔的な密室トリックが行われたのだ!──ということを、イチゴは伝えたかったらしい。
「一体、どんな密室トリックが使われたというのか……………………」
自動作業モードをさらに見返してみる。何か、密室トリックを解き明かすためのヒントが、隠されているはずである。
むむむ。
第77階層から、第78階層へと降りる。降りた瞬間、すでにおれとイチゴは、この密室の部屋内にいた。
そしてイチゴが勝手に転び、頭を打ってひっくり返る。
ここでおれの自動作業モードが解除され、
「どうしたんだ、イチゴ? そんなところで寝ている場合じゃないぞ」
「ち、違い、ま、す……これは……み……密室……殺……人。ぐへぇ」
の流れとなった。
……………。
「…………って、おまえ、自分で転んでんじゃねぇか!」
イチゴを蹴っ飛ばしたら、壁を破壊して外に転がっていった。
この衝撃で、仮死状態も解除されたらしい。
イチゴはふらふらと立ち上がり、恨みがましい目でおれを見てくる。
「なんてことするんですか、タケト様! わたしだって、好きで転んだわけじゃありませんよ!」
イチゴがあけた壁の穴から、おれも密室部屋の外に出る。
そこは、これまでと同じ巨大ワンフロアだった。
ワンフロアの中に、セットのような小部屋が用意されていたのだ。
「イチゴ、じゃぁ誰かに転ばされたとでもいうのか? あのな、ここには誰もいない。おれとお前だけだ。そして、お前は勝手に転んで、頭の打ちどころが悪く仮死状態になったんだ」
「違いますよ! いえ、確かに頭の打ちどころが悪くて仮死ったのは、そうですが──本当に、何者かに転ばされたんです!」
「見えない犯人に突き飛ばされた、とでもいうのか? 念のため周囲をスキャンしたが、透明化スキルを使っているような奴もいなかったぞ」
「ですが、おかしいじゃないですか。この第78階層までは、各階層ごとにフロアボスがいたんですよ。自動作業モードのタケト様が瞬殺していましたけど。しかし、この第78階層には、ボスがいないのです。おかしいです」
「ここのフロアボスは、トイレ休憩でもしているんだろ。もういいから、次の階層に行くぞ」
そのときだ。
おれは転んだ。
否、転ばされたのだ。
「なに?」
立ち上がって、周囲を見回す。
確かに、いま誰かに転ばされた。だが誰もいない。複数の探索系スキルを使っても、検知されないので確実だ。透明とかで姿を隠しているわけではない。
「あうっ!」
と、こんどはまたイチゴが転ぶ。
「イチゴ、頭の打ちどころは大丈夫か?」
「うう。今回は受け身をとれましたから。ですが、ね、タケト様。言った通りでしょ? 転ばされましたよね!?」
「まぁな」
「タケト様、わたしたちは──」
イチゴが、きりっとした顔で、
「スタ〇ド攻撃を受けています!!」
やめなさい。
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