25,アーダ、旅に出る。
1兆回分のパンチが終わったとき、黒鵜は全身を複雑骨折していた。
それでも原型は留めているのだから、さすがステータス∞。
「うるさい奴だから、カード化してやろっと」
《封印遊戯》を発動しようとしたが、失敗。どうやら黒鵜はドロシーと違って、モンスター枠ではないらしい。
そもそも黒鵜がステータス∞になった経緯とは、どんなものなんだろう。
ドロシーはダンジョン来館一人目、おれはトータルで一億人目の記念だったわけだが。
「ゆ、許さんぞ、ほ、北条、尊人、そしてストロベリー!」
「いえ、イチゴです」
「覚えていろ!」
黒鵜が聖剣を振り、次元に裂け目を作る。そして裂け目の向こうへと入り込み、この異世界から消えた。
「タケト様、息の根はとめなかったのですね」
「1兆回パンチでも原型をとどめている奴を、どうしたら殺せるんだろうなぁ」
別に黒鵜の命を取りたかったわけじゃないが、〈絶対神〉というのが実在するならば、考えさせられる。
どうもそいつを殺さんと、子育てに差しさわりがありそうで。
見ると、アーダががっくりと落ち込んでいた。
「どうした傷が痛むのか? いま治癒魔法かけてやるからな」
「師匠。痛むのは物理的なダメージではない」
「あ、そう」
「……いや、物理的なダメージも痛むので、治癒してほしい」
《超回復》をかけてやる。
回復したアーダだが、やはり元気がない。
「どうしたんだ?」
「師匠、私は強くなったと思っていた──しかし、まだまだ私は弱かったのだ。胃の中の蛙に過ぎなかった。真の強者たちの前では、赤子も同然だったのだ」
「いや、お前は充分チート級に強いよ。最近、インフレ起こしているのと連戦しただけで。というか、ドロシーとかと比べたらダメ」
「いや師匠、そんな慰めはいらない。私は、さらなる強さを求める心を忘れていた。私はもっと強くならねばならないのだ!」
イチゴが感動した様子で言う。
「アーダさんが、すっかり主人公的な向上心を見せていますよ。海賊王にオレはなる的な。ちなみにタケト様、いま何を考えていますか?」
ラーメン食いたい、と思っていたことは、黙っておこう。
「師匠。私は旅に出る。武者修行の旅に」
「まて、アーダ。お前が行ってしまうと、おれはイチゴと二人きりだぞ。こんなボケ役を、おれ一人に押し付けるつもりか」
「タケト様、わたしが常識枠のツッコミ担当ですからね。ルーレットで勝つために大陸を傾けた人、聞いてますか?」
「止めないでくれ、師匠。私は行かねばならないのだ。次に会うときは、より強くなった『アーダ:バージョン2』となっていることだろう。そのときまで、さらば」
かくしてアーダは行ってしまった。
「……」
「……」
「……イチゴ、ラーメン食うか?」
ゲートを開いて、地球は日本の山形県に向かった。なぜ山形県か? それは『ラーメンが美味い県』1位だからである。
良さそうな店に入って、おれたちは豚骨ラーメンを食べた。
「さて腹ごしらえもしたことだし」
その後、ゲートを開いて異世界の髑髏島に戻り、今度こそ≪幽冥ダンジョン≫へ向かう。
まずは元髑髏皇帝から≪幽冥ダンジョン≫の入口を聞き出す。
「探索防止の結界が張られていますので、外部の者は気づけません」
「なるほど。探索系スキルをかけても反応しなかったのは、そういうわけか」
しかしステータス∞の探索系スキルを妨害するとは──これは本物の予感。
元髑髏皇帝に案内されて、谷あいの何もない空間を指さされる。
「ここを歩いていくと、≪幽冥ダンジョン≫に入ることができます。お気をつけてください」
「ありがとさん。じゃ行くぞ、イチゴ」
「了解です」
歩いていくと、気づけば≪幽冥ダンジョン≫第1階層だった。
「おお、これは──!」
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