23,「「「我らに皮膚と筋肉を与えるため、遥々と異世界からやって来た~♪」」」」。
ステータス∞の男は言った。
「俺の名は、黒鵜だ。ようやく会えたな、北条尊人。貴様と戦うため、オレは長いあいだ旅をしていたのだ」
「さてはお前、独身だな?」
黒鵜とかいう男は、虚を突かれた様子。
「独身? そうだが、なんだというんだ?」
おれはイチゴにごにょごにょと言った。
「見ろ、イチゴ。家庭という責任を持っていない奴は、こうして好き勝手して生きているのだ。羨ましい、じゃなくて、無責任な奴め」
「タケト様、妬みがひしひしと伝わってきますね」
「いいか黒鵜とかいうお前。おれには責任がある。赤子のためオムツを持って帰るという、英雄的行為が。というわけで、独身のお前と遊んでいるヒマはない」
これに反応したのが、髑髏皇帝のほうだった。
「許さんぞ、北条尊人! 我が同胞の仇を──」
「筋肉と皮膚をやる」
「………………は?」
「髑髏で生きるのも飽きただろうから、お前に筋肉とか皮膚とか目玉とかをやる。だから、よく分からん因縁は水に流せ」
「………………全員か? 全員にくれるのか?」
「やる」
「じゃ許す」
これに慌てたのが黒鵜。
「ま、まて、髑髏皇帝。北条尊人は、同胞の仇だろ? 水に流すのが簡単すぎないか?」
「だが奴は、皮膚とかくれるというし。つーか、地球の髑髏皇帝など、余とは無関係だし。なぁ?」
髑髏皇帝が問いかけると、周囲にいた髑髏兵士たちもうなずいた。
「そうだ、そうだ!」
「この髑髏どもが! おい北条尊人! さっきまで髑髏軍が、貴様を『痴漢ヤロー』と歌っていたんだぞ! それへの怒りはどうした!」
「おれは気づいたのだ。真に大切なことは、世間がどう思うかじゃない。おれが何を知っているかだ。おれは自分が痴漢していないことを知っている。それで充分なのさ」
イチゴが黒鵜に向かって言った。
「キウイの刺客、まいりましたか! これぞ、バージョンアップしたタケト様の凄みです! 痴漢冤罪の件で殺戮ロードを歩んだ末にたどり着いた、この答え! 初日にたどり着いていたら、殺戮ロードもなかったのに! でもそれがタケット!」
「褒めるなよ、イチゴ。照れる」
「褒めてはいないだろ!」
と、黒鵜が余計なツッコミを入れてきた。
「そもそも北条尊人。あの痴漢冤罪が、偶然に起きたことと思っているのではあるまいな?」
「偶然ではないよな。ゲスな女子高生のせいだし。そのJKも、アーダが拷問死させたようだけど」
「確かに直接の原因は、痴漢冤罪を作ったゲスJKだろう。だが、そのゲスJKと同じ車両に乗り、さらには満員の中、近くに立つことになった。それまでが偶然だと思っているのか? 何者かが影から操ったとは、怪しみもしなかったのか?」
髑髏皇帝が黒鵜を押しやって、
「そんなことより北条尊人、我々に皮膚と筋肉を」
「はいよ」
安請け合いしたが、どうやって髑髏に皮膚とか筋肉を与えたものかな。
ふむ。もしかすると髑髏になる前は、皮膚とか筋肉もちゃんとあったのでは? 髑髏という種族になる前の、原子の世界では。
というわけで、試しに《超超回復:神の領域》を発動。治癒系スキルでは、これが最上位。
「ぐぉぉぉぉぉぉ」
と、髑髏皇帝が声を上げる。そこに筋肉や血管が蘇り、ついに皮膚やら目玉やら体毛まで復活した。
「おー、うまくいってしまった」
なんでもやってみるものだなぁ。
髑髏軍が大歓声。
さっそく他の髑髏たちにも《超超回復:神の領域》をかけてやる。ちなみに一度の発動にMPを785万も使うのだが、おれは∞なので問題なし。
こうして髑髏軍あらため、ただの人間の軍隊が歌いだす。
「「「「北条尊人~♪ 偉大なる男~♪ 我らに皮膚と筋肉を与えるため、遥々と異世界からやって来た~♪」」」」
元髑髏皇帝がやって来て、おれの手をがしっと握った。
「あなたの銅像を造ります。肖像権のお許しを」
「オーケイ」
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