19,≪痲臥ダンジョン≫運営記。
「イチゴ、聞け。ダンジョン運営にとって大事なことを考えてみた」
「タケト様、現実逃避はやめてオムツ取って帰りましょうよ」
「やだ」
「……タケット」
「まぁ、落ち着け。おれも父親になる覚悟はできている。良いパパになるだろう。しかしその前に、やるべきことがある。ダンジョン運営だ。おれの夢だった」
「嘘つけです」
ダンジョン運営で大事なのは、集客である。お客が来ないことには、意味がない。
そこでフェイク系スキルを活用し、大陸中にフェイクニュースを広げた。
≪痲臥ダンジョン≫のおかげで、お金持ちになりました。
≪痲臥ダンジョン≫のおかげで、勇者になりました。
≪痲臥ダンジョン≫のおかげで、恋人ができました。
≪痲臥ダンジョン≫のおかげで、ハゲが治りました。
≪痲臥ダンジョン≫のおかげで、生きる意味を見出せました。
数日後には、フェイクニュースに騙された間抜けなカモどもが──ではなく、心の素直な人たちが、わんさか≪痲臥ダンジョン≫にやってきた。
最下層から、その様子を監視映像で眺めていたイチゴが、ふしぎそうに言う。
「フェイクニュースに騙されたとしても、よく難易度が鬼畜な≪痲臥ダンジョン≫に、こんなに来ますね。自殺しに来るようなものですよ」
「それもフェイクニュースのおかげだな。難易度が『超易しい』という噂を広めた」
「フェイクニュースって、本当にクソですね」
このとき≪痲臥ダンジョン≫はさらに拡張しており、全320階層。つまり最下層の、おれたちがいるのは320階層。
いちおう、おれが正式にラスボスになった。
100階層にいる中ボスが、女児的種族たち。給料を支払ったら、より働くようになった。労働万歳。
また200階層にいる中ボスが、アーダ。正直、ここまでたどり着く奴はいないだろうがね。先日、転生者パーティも潰しちゃったし。
他にも、≪万里の長城ダンジョン≫からスカウトしてきたモンスターたちが、ダンジョン内に配置されている。
ラスボス席から、各階層に設置した監視装置より届けられる映像を眺める。
≪痲臥ダンジョン≫は大盛り上がりだ。
はじめの20階層までは、雑魚モンスターしか置いていない。つまり21階層から、いきなり難易度が跳ね上がるわけ。21階層まで降りてしまっては、もう引き返すこともできまい。
「そういえばタケト様、地上に出るための転送ポイントは、何階ごとに設置されたんです?」
「転送ポイント? ああ、地球のダンジョンにはあったな、そんなものが。お前ね、甘やかしすぎだよ、転送ポイントとか。よっておれのダンジョンには、そんなものはなし」
「マジですか」
「ちなみに第1階層の入り口だが、入ることはできても出ることはできない。第21階層で難易度が跳ね上がったからと、何とか引き返しても、もう外に出ることはできないのだ。地上に戻りたかったら、この最下層まで到達し、ラスボスを倒すしか方法はない」
「ラスボスって──」
「おれ」
「この悪魔!」
スマホに着信があった。
〔もしもーし〕
〔元気そうで良かったですわ、あなた〕
やべ、ドロシーだった。
〔あー、ドロシー。あのさ、オムツだろ。頑張って探しているんだけど、なかなか難しくて〕
〔わたくし、いまどこにいると思います?〕
〔え? 地球の≪万里の長城ダンジョン≫だろ?〕
映像を眺めながらポップコーンを食べていたイチゴが、いきなり悲鳴を上げた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! タケト様! 第1階層、第1階層を見てくださぁぁぁい!」
「なんだよイチゴ、うるさい。いまそれどころじゃ──」
第1階層には、ひとりの美女が立っていた。スマホで通話中らしい。
ふむ。おれの嫁さんに、よく似ているなぁ。
「って本人じゃん!」
〔いま降りていきますね、尊人〕
通話が切れた。
まずい。ドロシーが来る。
「止めろ、ドロシーを死ぬ気で止めろ!!」
「タケット、もう全滅ENDは確定ですよ!!」
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