18,傾けるんだ、この大陸を。
〈地獄の地獄のルーレット〉の前に座る。
なんか周囲のお客がやたらと見てくるんだが。
とにかく命と交換で、チップを1000枚。これが尽きたとき、おれはオークに喰われるのだ。
いや喰われようがないんだけども、防御力∞だから。そういうことを言うと、場がしらけると思うので、やめておく。
ふと見るとイチゴの姿があった。
財布を出して、逆さにして振る。中からは埃しか落ちない。
こいつ、もう全額負けてきたのか!
それからイチゴは「ざわ…ざわ…」と口でなんか言い出した。
おれは近くの屈強な店員を呼んで、
「すいません。あそこのレインボー髪の女、追い出してくれます?」
店員が、イチゴを抱えて店から放り出す。
「タケト様ぁ~」
さてウザいイチゴもいなくなったので、ここからはおれと〈地獄の地獄のルーレット〉との一騎打ち。
〈地獄の地獄のルーレット〉はシンプルな設定。
ホイール(回転盤)の区切られたポケットは36。本来なら玉が落ちる場所を賭けるのだが、〈地獄の地獄のルーレット〉では、初めから当たりとなるポケットが決まっている。
ようはそこに玉が落ちなければ、勝ちにはならない。
チップはまとめて賭けてもいいし、小刻み賭けもOK。
あと玉を投げ込むのは、ディーラーじゃなくておれ。
さっそく始めてもらいましょう。
ホイールが回り始め、おれが玉を投じた。
球は、当たりポケットから遠いところに落ちた。
そのとき、おれははたと気づいた。さてはこのルーレット台、細工がされているなと。
どうやっても当たりポケットには入らない、というイカサマ設定だろう。
そして気づく。だがこのルーレット台を、ちょっと傾ければいいんじゃないかと。
傾ける、このルーレット台を──このカジノ店を──この悪逆都市を──
否。
この大陸そのものを。
さすがに精神集中を必要とする。瞑目して、まず〈超絶浮揚〉を発動。
この大陸を浮かす。
つづいて、〈地獄の地獄のルーレット〉で当たりが出るまで、傾けていく。
大地が傾き、城は倒れ、人々は転び、ダンジョンは崩れ、被害は大災害レベル。
阿鼻叫喚。
しかし、まだ当たりポケットに玉が入らぬ。
まだだ。
まだ傾けるのだ。
人々が転がっていく。これまで平坦だった場所が、いまや急坂。そこまで傾いていく大陸。
イチゴが転がりながら、店内に戻ってきた。
「タケト様ぁぁぁ、この大陸をひっくり返す気ですかぁぁぁ!!」
「あともう少し傾けば、玉が当たりポケットに入るんだよ」
「ルーレット台だけ傾ければいいでしょうがタケットぉぉ」
「バカだなぁ。それじゃあ、店側におれがイカサマしているとバレるだろうが。しかし大陸ごと傾ければ、まさかイカサマとは気づきまい」
「誰かぁぁタケットに常識を教えてくださぁぁぁい!!」
「おれは常識人だ。元会社員だぞ」
ついに玉が当たりポケットに入った。
「大当たり! トニーオ、お前の仇は討ったぜ!」
瞬間、傾けすぎたため、ついにこのカジノ店も崩壊した。
のちに、この大陸傾き事件は、〈神の怒り〉と語り継がれることになるのだった。
さて。
結局、おれは大金を稼げそびれた。カジノ店が潰れては仕方ない。
だがすべてのカジノ店がダメになったわけではない。建築上、手抜きのあった建物だけが崩壊したのだ。
たとえばアーダが、王侯貴族相手のポーカー大会に参加していたカジノ店は無事だった。
そこでアーダは、王族相手に大勝ち。
おれたちは途方もない軍資金を得たのだった。
「ところでタケト様。大金持ちになったところ聞きますけど、それで何をするのです? お金を何に使うのですか?」
「≪痲臥ダンジョン≫を、この世界一のダンジョンにするために使うんだよ」
「………………地球帰る気ないですね、タケット」
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