17,悪逆都市アザーズ。
イチゴがTwitterで『異世界のカジノなう』と呟いているのを見た。
おっさんでも分かる。なう、が死語なことくらいは。
そもそもダンジョンの案内係のくせに、Twitterしているってどういうことだ。
アカウント名が、ストロベリー。なぜ英語にした。
呟きをざっと見てみる。
『異世界来ましたー』
『地毛ですよ、これは』
『#拡散希望 YouTube始めました』
何も言うまい。
地球でいうところのラスベガスが、周遊都市アザーズ。
130のカジノ店が凌ぎを削り、同時に犯罪多発地域でもある。
別名が、悪逆都市。
悪逆都市アザーズの大通りに瞬間移動したとたん、2つのことが同時に起きた。
まずイチゴが、財布を取り出し中身を確認。
「ふむふむ。お金はたっぷり入ってます」
そして引ったくりにあう。
「わたしのお財布がぁぁぁぁああ」
ほぼ同じタイミングで、アーダのチェンソーが一閃。
引ったくりの首を切り落とす。
「気をつけろ、案内係」
「ありがとうございます、アーダさん」
イチゴが引ったくりの死体から財布を取り戻し、異空間収納した。
「次からは、ちゃんと異空間にしまっておきますね」
「お前、異空間収納が使えたのか」
「唯一、使用可能なスキルですよ」
にしても、首を刎ねる騒ぎがあったのに、通行人はほぼ無視。さすが悪逆都市、首切断なんか日常茶飯事ということか。
と思いきや、衛兵たちが駆けてくる。
「貴様ら、現行犯で逮捕する!」
「一応は殺人は逮捕案件らしい」
「どうしますか、タケト様?」
「衛兵の相手なんかしていられるか。ここでいったん散るぞ。それぞれカジノで荒稼ぎして、5時間後にまたここで集合だ」
イチゴとアーダと別れたおれは、衛兵たちを撒いてからカジノ店のひとつに入った。
「このカジノ店の売りは、なんだろう」
するとお客の一人が、おれに店内の中央を指さしてきた。
そこには3体の巨大なオークと、ひとつのデカいルーレット台があった。
「あれは〈地獄の地獄のルーレット〉だ」
「『地獄の』が繰り返されるのか?」
「そうだ。それだけ地獄ということだ。お客が賭けるのは、自分の命。命と引き換えに、チップ1000枚を購入する。それで当たりを出せればいいが、チップが尽きた時が命のお終いだ」
「呪いのチップなのか?」
「いいや、あそこにいるオークに生きたまま喰われるのだ」
「おお」
さすが悪逆都市のカジノ店だ。凝っている。
「実は、おれはこれから一勝負してくるんだ」
と、その親切なお客は続けた。
「なんだって? 負けたら、殺されるんだろ」
「だが当たれば大きい。実は、第三子が産まれたばかりなのに、長年働いていた職場を解雇されてしまってな」
「それは気の毒に。うちも第一子が産まれたばかりだから、気持ちは分かるよ」
「ここで大当たりして、子供の学費にあてるんだ」
「そうか、頑張れ。ところで、あんたの名前は」
「トニーオ」
「トニーオか。おれはタケトだ。幸運を祈る」
「ありがとう」
トニーオと固い握手をかわした。
このとき、おれたちは友になったのだ。お互い、父親という同士。それだけで友情を築くには、充分だった。
トニーオを見送り、おれはバーに行った。
ウイスキーをすすってから、さてトニーオの調子はどうかな、とルーレット台を見やる。
トニーオが食べられ終わったところだった。
「トニーオぉぉぉぉぉ!」
喰われるまでが早いな。
おれは、〈地獄の地獄のルーレット〉の前に立った。
「トニーオ、お前の仇は取ってやる」
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