16,よーし父になる、カジノに行こう。
第100階層に瞬間移動して、中ボスのポジションとして、異世界転生パーティを待つことにする。
にしても、オムツ取りに行かなきゃならないのに、おれは何をやっているんだろうか。
やはり、まだ父親になる自信がないのか。それで無意識に帰還を遅らせているのだろうか。
ひとり悩んでいると、なんか声をかけられた。
「お前が、このダンジョンのラスボスか!?」
「違います、中ボスです」
悩んでいる間に、異世界転生パーティの連中が到着していたのだ。
「中ボスごときが、僕の行く手を遮られると思うなよ! こっちはチートスキル持ちだぞ!」
「あそう」
父親になるということは、これは責任重大ですよ。
なぜ運転免許の試験はあるのに、父親になる試験はないのか。逆に試験とか受けて合格したら、自信をもって子育てできるのに。
「くらえ! 一撃必殺のチートスキル《ただの斬撃》!」
なんか知らんが、転生パーティのリーダーが斬りかかってきた。
ただの斬撃を与えるだけで、問答無用で殺せるのか。それは確かにチートだなぁ。
斬撃を弾いてから、そいつの顔面に拳をめり込ませた。
こっちは、ただのパンチ。
「うるさいんだよ、転生者。こっちは父親としての悩みに頭を抱えているんだよ」
リーダーの顔が潰れて吹っ飛んだ。
「うわぁぁリーダーがぁぁ! 貴様、リーダーになんてことを! 死の魔法を食らうがいい、《死の息吹》を!」
こんどは転生者パーティの魔術師が、魔導書を出して呪文を唱えだす。
長い。
魔術師に《闇黒重力》をかけて動きを封じてから、脳味噌を口から引き抜いた。
「ぁぁぁぁぁあ! なんてことを!」
で、お次は転生者パーティの剣士が怒声を発してくる。
おれはチラッと見やって、
「だいたい、お前らはどこの世界の転生者だ?」
「俺は地球の日本から転生したんだ。そう、あれは歩道を歩いていたとき。轢かれそうだった子犬を助けた俺は、かわりにトラックに轢かれて」
「知るか」
いまさら日本と聞いても、同国意識とか抱かん。まだ転移者ならともかく、転生者だしな。
というわけで、《血の刃》を発動。
これは、おれの血液を武器にするスキル。
すなわち血液も、ステータスは∞。よって防御のしようがない。
「ぎゃぁぁぁぁあ防御ができないぃぃぃぃ」
「痛いよぉぉぉぉ死ぬぅぅぅぅ」
「あぁぁぁぁぁぁぁあ1000年の訓練がぁぁぁぁ」
「せっかく転生したのにぃぃぃぃ」
転生者どもを血の刃で切り刻んでいると、なんだか心も晴れてきた。
瞬間移動で最下層に戻る。
「体を動かしたら、すっきりした」
監視映像を見ていたイチゴが、なぜか呆れた様子で言う。
「殺戮したらの間違いでは? 転生者パーティを皆殺しにするなんて。ちょっと会話したりして、展開を広げていこうという気持ちはないんですか? 転生者なんてレアなのに」
「おれはオムツを入手し、地球に帰るぞ。そして父になる!」
イチゴが口をぽかんと開けた。
おれの決意に感動しているのか。
「タケト様、まだ覚悟を決めてなかったんですか」
「はぁ?」
「上海のマックで初めて赤ちゃんできたと聞いたとき、覚悟を決めたんじゃないんですか。未来から娘が来ておきながら、なにをいまさら」
「独身に未練たらたらなのを暴いたのは、お前だろ」
「情けないですねタケット! それでいつかは〈無神〉を殺す者ですか!」
「いや〈無神〉とか殺す予定ないから。とにかく転生者パーティも片付けたことだし、こんどこそ行くぞ」
「どこにです?」
「≪幽冥ダンジョン≫に決まってるだろ。この流れでコンビニでも行くと思ったか」
足元を見ると、女児的種族たちが見上げていた。
「ボス」
「賃金を」
「上げるです?」
給料とか支払いたくても、お金がない。
そこで、おれはハッとした。
「そうだ。まずはお金を稼ごう」
というわけで、この国の最大のカジノに行くことにした。
「一発当てるぞー!」
「タケト様、マジでドロシーさんがキレますよ」
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