15,異世界転生のパーティですよ!
王都には魔族しか残っていなかったらしいので、
「いま王都を吹き飛ばしたのは、勇者ドロシーの正義の炎である」
ということにした。
瞬間移動で大地に戻ったところで、漏らした勇者アリス──気の毒──にそう説明しておく。
別に間違ってはいないのだ。ドロシーの破壊スキルが、おれのスマホを経由して発動された結果なのだから。ただ動機が、凄ーく個人的なことだった、というだけの話で。
勇者アリスはハッとして、何やら敬意を表してくる。
「さすが伝説の勇者ドロシー様!」
アーダが小ばかにしたようにつぶやく。
「なにが勇者だ。あれは魔王の中の魔王だぞ」
以前、ドロシーにボコられたことがあるからなぁ、アーダは。
おれはアリスの肩を叩いて、
「そんな感じで、人間社会に報告しておいて。魔王ゾルザーギが倒され、勇者ドロシーの力はいまもこの世界を守っているのだと」
イチゴが脇腹をつついてくる。
「ですがタケト様、これで≪幽冥ダンジョン≫がどこにあるか分からなくなりましたね」
アリスが小耳にはさんだ様子で、
「≪幽冥ダンジョン≫に用があるのか? 確か、あれは髑髏島にあると聞く。髑髏皇帝の統治下だ」
「髑髏皇帝って、どこかで聞いたことがある」
「タケト様、【五魔王族】の一体ですよ。どうでもいいことを忘れるのが早すぎです」
「そういえば、いたね。すると、この世界にも髑髏皇帝がいるのか?」
「さぁ。偶然、同じ名前を名乗っているだけだと思いますけど」
勇者アリスを最寄りの都市に運んでから、ひとまず≪痲臥ダンジョン≫に戻った。しばらくは、このダンジョンを拠点にするか。
ラスボスをやらせていた女児的種族たちが出迎えてくる。
「ボスの帰還です!」
「賃金を上げろです!」
「賃金を上げろです!」
「賃金を上げろです!」
「賃金を上げろです!」
いきなり労働ストを始めそうな勢い。
なんでも≪痲臥ダンジョン≫を攻略してくる謎のパーティがいるらしい。女児的種族が送り込んだ機獣竜も、ひたすら返り討ちにあっているとか。
「機獣竜でも歯が立たない? そんな猛者が、この世界にいるとは思えないがなぁ」
とりあえず監視スキルで、くだんの謎のパーティを確認してみる。
いまのところ第88階層を攻めているところ。
ちなみに《増築》スキルで、ダンジョン階層を200まで増やしてある。おれたちが今いるのが、ラスボスが控える200階層というわけ。
謎のパーティは6人編成で、テンポよくモンスターたちを倒している。
不可解なことに、どいつもレベル数値を見ることができない。
「何者だろうな、コイツらは?」
おれの隣で、監視映像を見ていたイチゴが、
「あ、タケト様! この人たちの、魂の色を見てください! この世界の奴らじゃないですよ!」
「すると、おれと同じで異世界から来たのか」
「ふーむ。タケト様、あれは異世界転生組です」
「なんだって?」
「別世界で死んで、そこの記憶を持ったまま、この世界に誕生したのですよ。なぜか知らんですが、異世界転生した者たちは、フルスペックです」
「レベルとかのステータスを覗き見れないのも、それが原因か?」
「レベルやステータスの概念が、わたしたちとは根底から違うのかもしれないですねぇ」
「何が嬉しくて、おれの家に不法侵入していやがるんだ、あいつらは」
「いえタケト様、ここオープンなダンジョンですから」
異世界転生パーティのリーダーが、機獣竜を一撃で屠る。
少なくとも、力はアーダ・クラスということか。かなりの手練れだなぁ、面倒くさい。
女児的種族たちがダウンした。
「あぅぅぅ、機獣竜を出してすぎて疲れたです」
「賃金を上げてくれるまで」
「もう働かんのです」
「働かんのです」
「ストライキです」
「ストライクスリーです」
「それは違うです」
「賃金上げろです」
イチゴがおれの耳元で囁いた。
「そもそも賃金とか払っていたんですか?」
「いや、そもそもタダ働きさせていたけど」
「鬼タケット~」
監視映像を見ていたアーダが言う。
「師匠。異世界転生パーティが99階層まで到達した。全200階層の≪痲臥ダンジョン≫の折り返しに、次で到達してしまう。何か中ボスを用意するべきでは?」
「中ボスかぁ」
アーダを行かせて負けられると困るなぁ。
「じゃぁ、おれがちょっくら行ってくる」
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