13,イチゴ、『うごー』する。
勇者アリスが発動したスキル〈無限斬〉。
一度の斬撃が無限回数続くという、なんかよく分からんが強い攻撃。
対するは、我らがストロベリー閣下。
どうでる?
「あぎゃぁぁぁ殺されてしまいますよぉぉぉお!」
ダメだこりゃ。
イチゴを《結界》で囲って、無限斬撃から防御してやる。
「情けないな、イチゴ」
イチゴは鼻水たらしながら訴えてきた。
「タケト様、マジで三途の川行きましたよ。向こうでドルゾンが手招きしていましたよ。わたしは戦闘とは無縁なんですから、ちょっとホント頼みますよタケト様おい」
自称ドロシーの生まれ変わりが歩いてくる。
「貴様、それなりにやるようだな」
そしてイチゴを守っている《結界》に向かって、剣を振り下ろしてきた。
イチゴ、頭を抱える。
「やられましたぁぁぁ!」
「安心しろ。おれの《結界》は、その程度の攻撃じゃ破壊されないって。そんなことより、勇者アリス。あんた、ドロシーの生まれ代わりというからには、何らかの関係性があるんだろうな?」
「当然だ。私が生まれたとき、予言があった。私こそがドロシーと同じ魂を持つ者であり、復活した魔王を討つだろうと。その時のために、私はこれまで激しい訓練に耐え、世界各地のダンジョンを巡って腕を磨いてきたのだ」
イチゴがヒソヒソと言ってきた。
「どうするんですか、タケト様。魔王を殺しちゃったこと話してあげたらどうですか?」
「お前なぁ、小便していたときに殺しちゃいましたとか、言えるわけないだろ。あの勇者は、その魔王を殺すため青春とか犠牲にしてきたんだぞ。おれが用足し中に殺しちゃった魔王を討つために。なんか不憫だ」
「じゃあ、どうするんですか?」
「どうしようか」
「貴様ら、何をヒソヒソと話している!」
勇者(自称)アリスが、敏捷度を一気に上げて肉薄してきた。
「《破の剣:蛇斬》!」
刃が蛇のように動きながら、おれに襲い掛かってくる。
ちょうどいいので刃を鷲掴みにして、砲丸投げの要領で振り回してから、ぶん投げた。
「貴様ぁぁぁ許さんぞぉぉぉ」
ドロシーとは縁もゆかりもない勇者アリスが飛んでいく。
「しょうがない。魔王を討たせてやろう」
いったん城内に戻り、運ばれていた魔王の死体を強奪。
「お前、何をする!」
「あとで返すから」
イチゴのところに戻ってから、魔王の体内の臓器とかを絞り出す。
「タケト様、グロいですよ。グロです。しかし、エロはなしです」
魔王の体内を空にしたので、イチゴへ突き出した。
「着ろ」
「…………………すいません。ガチで理解に苦しむんですけど」
「魔王の体内を空にしたから、着ぐるみのように着れるだろ。お前が魔王役をして、勇者アリスに倒されてこい。そうすれば勇者アリスは魔王を討てるし、魔王だって、便所で殺されたという汚名を後世まで残さずに済む。おれの良心も満足」
「わたしが死ぬじゃないですか!」
「《結界》に守られたまま着ればいいだろうが」
「なんでわたしがこんなことを」
「ストロベリー閣下として、ちょっとは働け」
イチゴが魔王を着たころ、さっきぶん投げた勇者アリスが戻ってきた。
「そこにいるのは、魔王ゾルザーギだな!」
魔王の着ぐるみの中から、イチゴが困った声で言う。
「タケト様、なんて返事すればいいんですか?」
「『うごー』とか言っておけ。実際、魔王ゾルザーギはそれしか言っていなかったし」
『うごー』
とイチゴ。
とたんアリスが剣を取り落とし、両手で耳をふさいだ。
「それは精神を崩壊させる魔王最強スキルの《絶叫》だな!」
えー。『うごー』とか、そんな凄いスキルだったのかぁ。
というか、魔王の『うごー』は精神崩壊を起こすスキルだったかもしれないが、これはただイチゴが『うごー』と言っているだけだからな。
それにマジで反応している勇者って、どうなんだろう。
調子に乗ったイチゴが、さらに『うごー』を連発しながらアリスに近づいていく。
「やめろ! わたしの精神を壊すなぁぁ!」
そのときアーダが跳躍してきて、チェンソーを魔王の頭に振り下ろした。
「くらえ、魔王ゾルザーギ!」
「あっ……………イチゴぉぉぉぉぉ」
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