7,北条尊人による魔神ダンジョン。
イチゴは、≪痲臥ダンジョン≫改造プランを提示した。
まずトラップの設置。
いまのところゼロというのは、さすがにダンジョン的には寂しい。
「だがなイチゴ。討伐隊のパーティはもうダンジョン内にいるんだぞ。いまからトラップ設置なんか間に合わないだろ」
「確かに、こちらの欠陥ラスボスでは無理でしょうね」
とホブックを指さすイチゴ。
ちなみにホブックは肩を落として、うなだれていた。メンタル弱いな、このラスボス。
「ですがタケト様ならば、余裕のよっちゃんでしょう」
『余裕のよっちゃん』とは、死語である。
「ラスボスの代理はさせないくせに、そんな裏方はやらせるのか。だが生まれ変わったおれは、心が優しいから、トラップ設置に協力してやる」
「トラップは形だけでもいいですよ。殺傷性はなくていいです」
「バカ言え。設置するからには、ガチなトラップに決まっているだろ。討伐隊の連中には、汚い洗濯物ばかり寄こしてきた恨みもあるので、罪悪感なしに致死トラップを設置できるしな」
「さすが魔神ですねぇ。人間の心がないのが素敵です、タケット!」
なに言っているんだ、コイツは。
「さて、どんなトラップにするかね。フロアに入ったとたん、全領域に1兆度の炎が行きわたるとかか」
ところがアーダからストップが入った。
「師匠。それはダメだ。トラップとは、助かる余地がなくては意味がない。冒険者パーティを皆殺しにするのが目的ならば、ダンジョン全域に無味無臭の毒ガスを充満させれば済む話。だが、それでは健全なダンジョンとはいえない」
うーむ。健全なダンジョンとは何か──アーダに教えられてしまったようだ。
顔面蒼白のホブックが、我慢できなかったというように叫んだ。
「コ、コイツら──全員、頭がおかしいよぉぉお!」
「失礼だな」
トラップ設置のため、まずは≪痲臥ダンジョン≫全域に《要探索》をかけて、MAPを作る。
このMAPを具現化してから、指でタップしていく。
「タップした地点にトラップを設置できるぞ。しかし、どれくらいの間隔で設置するかな?」
元フロアボスでもあるアーダが腕組みして、
「トラップとは、連続しすぎると冒険者たちも興ざめしてしまう。その一方で、トラップがないのも手抜きのように感じられる。師匠、匙加減が大事だ」
「ふむ。緩急をつけるわけだな」
トラップ設置を終えたところで、さらにイチゴが言う。
「そもそもフロアボスがいないというのは、舐めていますね。攻略する遣り甲斐というものがないではありませんか」
ホブックが困った様子で弁明する。
「フロアボスを任せられるほどのモンスターがいなかったもので。あの、正直に言いますと、どこのダンジョンもモンスター不足なんですよ」
「雑魚モンスターも少なかったですしね。タケト様、モンスターを創ってください」
「さすがに創造スキルはもってないなぁ。だが別案がある」
異世界ゲートを開いて、地球の≪万里の長城ダンジョン≫に戻る。
そこではドロシーを頼って、たくさんのモンスターが地上から降りてきていた。
「よーし。みんな聞いてくれ。異世界のダンジョンで、モンスターとしての仕事があるぞ。さぁ、モンスターとして本領を発揮したかったら、一緒に来てくれ」
ドロシーに見つかる前に大量のモンスターを引き抜いてから、異世界ゲートを閉じた。
さらに引き抜いたモンスターの中から、レベル50以上の奴を見つけて、フロアボスに任命していく。
「さ、みんな配置につけ~! すでに討伐隊の精鋭パーティは、このダンジョン内に入っているぞ~! 一人でも多く殺すのが、お前たちモンスターの仕事だぞ~!」
モンスターたちを送り出してから、おれはイチゴに言った。
「どうだ、満足か?」
「最後にラスボスが必要ですね」
ホブックが己を指さす。
「あのー、ラスボスは俺がいるんですが?」
おれは本題を思い出した。
「そういえばホブック、≪幽冥ダンジョン≫はどこにあるんだ?」
「えーと。≪幽冥ダンジョン≫は隠しダンジョンなので、場所は魔王様しか知らないはずです」
マジかよ。
イチゴがつついてくる。
「タケト様、ラスボスがいるんですって」
ホブックがまた訴えてきた。
「いや、俺がラスボスなんですけど」
「お前はいらんです」
アーダがチェーンソーを一閃して、ホブックの首を刎ねる。
「な、ん、でぇぇぇぇぇえ!!!」
と断末魔の叫びを上げて、≪痲臥ダンジョン≫のラスボス死亡。
●そのころ●
──討伐隊の精鋭パーティの視点──
「ぎゃぁぁぁぁ! こんなところにも死のトラップがぁぁぁ」
「誰かぁぁ助けてくれぇぇぇ回復魔法を早くぅぅぅぅ」
「ひぃぃぃぃモンスターの大軍が、やってくるぅぅぅぅぅ」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁまだ死にたくないぃぃぃぃ」
恐慌をきたしたボーンが叫んだ。
「な、なぜだぁぁ! 前回に攻略に入ったときは、こんなに難易度は高くなかったのに! トラップもなかったし、モンスターも少なかったのにぃぃぃ!
これでは、まるで魔王ダンジョンのようではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
厳密には魔王ダンジョンではなく、北条尊人による魔神ダンジョンだった。
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