5,≪痲臥ダンジョン≫に入りまーす。
面倒な部署に回されたときのコツは、効率よくサボることだ。
洗濯スキルなど存在しなかったので、水系統スキルと化学薬品系統スキルを合体させて、独自の洗濯機スキルを開発した。
ついでに風系統スキルから乾燥機スキルも開発。
あとは兵隊からまわってきた汚れ物を、この『洗濯機スキル→乾燥機スキル』の自動モードにぶち込むだけで良い。
さらにおれは柔軟剤スキルも開発し、洗濯機スキルに合体させた。
効率よくサボりながらも、良い仕事をすることが大切だ。
3日目には、おれの洗濯係としての評判はうなぎ上り。
ついに将官になった。
「あのタケト様、ツッコミどころが多すぎて、わたしの脳の処理が追いつかんです」
「だろうな。普段はボケ要員だものな、お前は」
「誰が、ボケを極めた天才美少女イチゴちゃんですか、こら」
「そんな褒め言葉は言っていない」
「洗濯を極めたくらいで将官はおかしいでしょ」
「一芸を極めた者は評価される世界なんだろ。ほら、お前をおれの直属部下にしてやったんだから、感謝しろ。そして洗濯板で、おれの靴下を洗ってこい」
「洗濯機スキルがあるのにですか?」
「お前な、ちょっとは働け。ほら、そこの河で洗ってこい。洗濯板と洗剤を忘れるなよ」
「タケト様がドS開花していて、わたしは辛いです」
5分後。
イチゴが向かった河から悲鳴が聞こえてきた。
「タケト様ぁぁぁぁ、食われるぅぅぅぅぅ」
呆れながら行ってみると、牡牛くらいある巨大魚が、イチゴを丸のみにしようとしているところだった。
ステータス表示を見ると、レベル22。≪樹海ダンジョン≫だったら、第1階層でドラゴンのエサにされているレベルの雑魚モンスター。
「元Sダンジョンの案内係だろ。自力で逃げろ」
「無理ですムリぃぃ、食べられるのは嫌ですぅぅぅ」
「仕方ない」
石ころを拾って、音速で投擲。巨大魚を貫いた。
イチゴは這いずるようにして、河から上がってくる。
「ああ酷い目にあいました。やっぱりタケト様の脳内にいたほうが安全ですね」
「いまおれの脳内に戻ったら、お前がいきなり消えて、怪しまれるだろ。しばらくの間は、人間として洗濯係していろ」
「えー、血も涙もないです」
魔王討伐軍の大目的は、王都奪還だ。そのために魔王の力を削がねばならない。
その方法として、各地のダンジョン攻略が採用されたらしい。
討伐軍の考えによると、各ダンジョンが魔王ゾルザーギに力を与えているそうだ。
活動中のダンジョンが減れば、ゾルザーギの力も減少し討ちやすくなると。
この仮説が正しいとするなら、ゾルザーギは『ダンジョン創造』スキルを有することになる。
それって魔王というより、《無神》の領域じゃないか?
とにかく各ダンジョンを回りながら、地方の都市や町では仲間を補充する。
アーダのようにレベルの高い者を徴募していくわけだ。
異世界人を軍隊に入れるとは──もちろん正体には気づいていないわけだが──セキュリティが甘いな。
戸籍とかないのか、この国は。
何はともあれ──入隊して7日後。
やっと最初のダンジョンに到着した。
「最近は瞬間移動ばかりしていたから、徒歩で移動することに新鮮な感動を覚える7日間だった」
「わたしもタケト様の脳内にばかりいたので──歩きすぎて足にマメができました。見ますか?」
「なにが嬉しくて、お前の足のマメなんか見なきゃいけないんだ」
「回復魔法で癒してくださいよー」
「断る」
初ダンジョンは≪痲臥ダンジョン≫という名前で、攻略難度はSだとか。
「攻略難度だけみると、≪樹海ダンジョン≫と同等だな」
「うちの≪樹海ダンジョン≫と一緒にしないでくださいよ。地球ダンジョンだったら、せいぜいBでしょうに」
「行ってなきゃ分からんな」
当然ながら、おれたち洗濯係は、ダンジョン入りする精鋭パーティから外された。
かなり自信のあるパーティらしく、志願したアーダも入れなかったくらいだ。
アーダが残念そうに言う。
「師匠、どうせなら偽装レベルを50くらいにしておくのだった」
「ダンジョン内まで討伐軍と同行する必要はないだろ。おれたちだけで、こっそり入るとしよう」
イチゴは簡易椅子に腰かけて、ぐったりした様子で言った。
「わたしは留守番していますね。足にマメができましたので、マメが」
「≪痲臥ダンジョン≫にラスボスがいたら、そいつを拷問して、≪幽冥ダンジョン≫の場所を聞き出すとするか」
「タケト様、いちおう言っておきますけど。ラスボスを拷問するって発想、フツー魔神くらいしか思いつきませんからね」
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