4,洗濯係の名コンビ、爆誕。
≪幽冥ダンジョン≫がどこにあるか不明なので、市民に聞き込みすることにした。
というわけで、アーダとは手分けすることに。
「イチゴ、お前はおれといろ」
「寂しがり屋さんですねぇ、タケト様は」
「お前を一人にしておくと、また拉致されそうだからだ」
情報収集に適したスキルなら沢山あるが、ひとまず目立たない方針を維持しよう。
スキルは使わずに、地道に市民に聞き込みだ。
しかし≪幽冥ダンジョン≫を知る者は、なかなか見つからず──
「面倒だ。この都市にいる全市民の脳内に検索をかけて、≪幽冥ダンジョン≫を知っているか確かめてくれる」
「こらえ性のない男、THEタケト」
「《脳内検索》を発動」
結果、この都市内にいる者で、≪幽冥ダンジョン≫を知る者はいなかった。
なんという無駄足。
「≪幽冥ダンジョン≫は、一般的に知られていないのか。またはこの都市からかなり離れた場所にあるからなのか」
「ドロシーさんから、詳しい場所は聞いてこなかったんですか? まったく準備に抜かりありですね、タケト様」
「……」
「なんか殴りたそうな顔していますね。まぁまぁ、そこの酒場で一杯やりましょうぜ、タケト様」
不衛生な酒場に入り、林檎酒を注文する。
「アーダはどこまで聞き込みに行ったんだろうな」
「アーダさんのことですから、魔王討伐軍とかにスカウトされていたりして」
「オムツに集中するよう言っておいたから、そんな心配はないだろ」
やがてアーダが、おれたちを見つけて店内に入ってきた。
ウキウキした様子で、
「師匠、魔王討伐軍にスカウトされたのでOKした!」
「お前、だんだんダメな子になっていくな! イチゴの悪影響か?」
「タケト様、わたしはあんなダメな子じゃないです」
「師匠、聞いてくれ──そのまえに焼き鳥が食べたい」
「食いしん坊が!」
焼き鳥を食べながら、アーダは本題に入った。
「魔王討伐軍は各地のダンジョンを攻略していくことで、復活した魔王の力を削ぐつもりのようだ。つまり、我々も同行すれば、いつかは≪幽冥ダンジョン≫にたどり着く」
この子、単に魔王討伐軍に参加したいだけだろ。
そんな回り道しなくとも、魔王討伐軍の将軍でも拉致してきて、≪幽冥ダンジョン≫について聞いたほうが早い。
「ところでイチゴ、ゾルザーギとかいう魔王も、《無神》の部下なんだろ?」
「さぁ、どうですかね。この世界が《無神》の侵略対象に入っているかは知らんです。記憶が封じられていることを、お忘れなく」
《無神》絡みでなくとも、魔王なんていうものが出てくるものなのか?
まぁ、【超人類】の例もあるから、一概には言えんか。
ということで、この世界にも、ステータス∞の輩がいるかもしれないな。
もう少し情報が集まるまでは、大人しくしておくか。
「分かった、アーダ。しばらく魔王討伐軍に同行してみるか」
で、5分後。
おれは晴れて、洗濯係に任命された。
「ちょっとまて! なんだ洗濯係って!」
魔王討伐軍の将官の一人、ボーンとかいう男が答える。
「我が軍は原則、精鋭しか入れんのだ。貴様はたかがレベル9ではないか。最低でもレベル15は必要だ。だがアーダ殿がどうしてもと言うので、貴様の入隊を許可したのだ」
くそ。偽装レベルを低く設定しすぎた。
「アーダだって、たかがレベル33だろ」
「貴様はレベル30の壁を知らんのか? レベル30を超えることができるのは、一握りのみ。アーダ殿は、その壁を超えているのだ。特別扱いは当然だろう」
初めて会ったころのソフィアでさえ、レベル80はあったというのに。
そこを考えると、ここの奴らは全体的に雑魚すぎなんじゃないか? こんなので魔王討伐などできるのかね。
ちなみにアーダはといえば、ボーンの首を斬ろうとしていた。神速で。
おれが《固定》を発動して、アーダの動きを封じていなかったら、いまごろボーンの頭部は転がっていたな。
もちろんボーンは、そんなこと露ほども気づいていないが。
ボーンが去ったところで、おれはアーダを注意した。
「やたらと人さまの首を斬ろうとするな。オーガの血をおさえなさい」
「師匠をバカにした者は、殺すのが当然」
「気持ちだけ受け取っておくから、絶対に殺すなよ」
イチゴが、おれの脇腹をつついてきた。
「タケト様、タケト様。わたしも洗濯係として入隊できました。これからは、洗濯係の名コンビとして活躍していきましょうね!」
「……地球に帰りたい」
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