2,鉄板と安心のイチゴ。
さて、ダイヤも取り返したことだし──
〔いえタケト様。取り返してはいないですよ。はじめからアイテムリスト内にありましたよ。都合よく記憶改ざんしないでください〕
〔おれの思考にツッコミを入れるな〕
〈デウスマキナ〉が死に際に言っていた、分岐宇宙とやら。
すなわち世界は複数に枝分かれしているわけだ。ミライ乃愛が過去を変えても未来に戻れたのも、そのため。
この分岐世界の中でも、確然として世界観が異なる場合、異世界という。
──らしいよ。
「師匠。しかし目指す異世界には、どうやったら行けるのだろう? 世界が分岐しているのなら、異世界も多数あるはずでは?」
すっかりMPが回復したアーダが、そう疑問を口にした。
こいつ、回復力が半端ないな。
「それなら、さっきドロシーから番号が届いた。分岐世界におけるGPS座標みたいなものらしいな。この番号をゲートに入力すれば、目指す異世界に行けるそうだ」
「つまりドロシーは、すでにその異世界に行っていたことがあるのだな師匠」
「だろうな。そこの異世界の≪幽冥ダンジョン≫とやらに〈天国のオムツ〉があることを知っているわけだし」
ドロシーはこれまで≪カンザス・ダンジョン≫のラスボスをしながら、異世界にも遊びに行っていたようだな。
さて、異世界へのゲートを開く。
アーダがワクワクした様子で言った。
「師匠。これが異世界転移というものだな!」
「異世界転移なんて大袈裟な。ちょっと行って帰ってくるだけだから」
アーダは神妙な面持ちになって、
「おお。コンビニ行く感覚なのだな、師匠」
〔もしくは、貧乏学生が住まいの安アパートにお風呂がないから銭湯に行く感覚なのですね、タケト様〕
〔たとえが細かいな〕
異世界ゲートに、ドロシーが寄こした番号を打ち込んだ。
「じゃ、行くか」
「まって、北条さん!」
ゲートに片足踏み込んだところ、ソフィアが慌てた様子で走ってきた。
ダンジョン調査機関の本部に戻っていたはずだが、見送りにでも来たのかな。
「北条さん、受勲式は出席してくれるんでしょうね? 受勲式は三日後よ! 世界の要人に、もう招待状を送っちゃったのよ!」
「三日後なら問題ないって。目的をすませて、すでに帰ってるよ」
そもそもオムツ取ってくるのにそんなに時間かかったら、ドロシーがうるさいし。
ゲートをくぐり、異世界に到着。
ひと気のないところを選択したので、どこかの大草原だった。
「師匠。いっそのこと≪幽冥ダンジョン≫に直接行けば良かったのでは?」とアーダ。
「異世界ゲートじゃ、ダンジョンには直接行けない」
ふと見たら、虹色の髪の女が立っていた。すらりとした肢体、豊かな胸、雪のように白い肌。纏っているのは、純白の薄い衣だけ。
「って、また勝手に外に出たのか、イチゴ。はやく脳内に戻れ」
「タケト様、甘いですね。異世界ならば、わたしはタケト様の脳内にいる必要はなしです。案内係としての縛り解除です」
「はぁ?」
「ですから、わたしは『地球から入れるダンジョン』の案内係ですからね。ここは異世界。地球ではないので、案内係としての縛りもないわけですよ。タケト様の脳の外で、自由に出歩けるのです。
というわけで、ちょっと自由を満喫してきます!」
イチゴが駆けて行く。
丘をのぼり、その向こうに消えていった。
「師匠、追わないのか?」
「そのうち戻ってくるだろ。ところでステータス数値だが──」
久しぶりにアーダのステータス数値を見たところ、
Lv 365
HP 75788
MP 45857
STR(力) 128099
ATK(攻撃力) 145445
VIT(生命力) 58985
DEF(防御力) 85680
RES(抵抗力) 36118
AGI(素早さ) 22229
という、【超人類】の幹部格になっていた。
さては機獣竜を倒しまくって、経験値を稼いだな。
「お互い、ステータス数値に偽装をかけておくぞ。目立ちたくないからな。たたでさえ、ここじゃ異世界人だし」
「了解した」
アーダの偽装数値が、
Lv 33
HP 1578
MP 2565
STR 2521
ATK 2475
VIT 2898
DEF 1568
RES 2657
AGI 1227
おれの偽装数値が、
Lv 9
HP 578
MP 565
STR 521
ATK 475
VIT 898
DEF 568
RES 657
AGI 227
「師匠、さすがに偽装でも雑魚すぎないか?」
「目立たないことに徹したら、こうなるだろ普通」
丘を登ったところ、さっそくイチゴを見つけた。
盗賊団にさらわれていくところだった。
「タケトさまぁ~、アーダさ~ん、助けてくださーい!!」
「……」
「……」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




