96,蹴っちゃった。
──〈デウスマキナ〉乗組員の視点──
「閣下! 緊急脱出を具申します! アンダルが倒されてしまった今、我々に勝ち目はありません!」
ロマナナがそう訴えると、将軍ルシガは一喝。
「バカ者がっ! アンダルが倒されることなど、想定の範囲内だ!」
「え、そうでしたか? 先ほどはアンダルがやられて、私と同じようにショックを受けていたような──」
「バカ者っ! アンダルなど捨て駒に過ぎん! 真打を出すのはこれからよ! その名は、ザーボン! あのアンダル以上に危険とされ、〈デウスマキナ〉様によって厳重に封じられてきた男だ! さぁ、いまこそ【286の獣を飼う男】の異名を持つザーボンが解き放たれるのだぁぁぁあ!」
ロマナナは監視装置からの報告を読み上げた。
「あ、閣下。ザーボンが倒されたそうです」
「えぇぇぇ!? いつぅぅう!?」
「78秒前に交戦に入り、8秒前に倒されたようで」
「えぇぇぇぇ!!」
★★★
78秒前。
──主人公の視点──
アンダルが自滅。
ということで、【異空間領域】から出ようとしたところ──
また新たな【超人類】がやって来た。
こんどの【超人類】は、全身に禍々しい刺青を入れている。
「アンダルを倒したくらいで調子にのるなよ、北条尊人よ! 我が名は、ザーボン! 286体の召喚獣を操る男だ! しかも召喚詠唱などは不要。なぜならば、我が体に宿しているのだからな!」
そう言うなり、全身の刺青が具現化してきた。
なるほど。全身に彫られた刺青こそが、体に封じた召喚獣なのか。
286体の召喚獣が一斉に【異空間領域】に現れた。
なんという凄まじさ。
召喚獣一体一体が、かの【五魔王族】に匹敵しうるステータスを保持しているのだ。こんな化け物どもが地球に降り立っていたら、モンスターたちなどあっという間に全滅させられていたな。
「ならば、うちの召喚獣も見せてやろう。行くぞ、イチゴ!」
〔はいタケト様!!! ……え? あのちょっと確認しますけど、もしや召喚獣って──〕
「イチゴ、君に決めた!」
脳内からイチゴを引っ張り出して、具現化する。
「タケト様、わたしはポケ〇ンじゃないですよ! 勝手に『君に決めた』とか言わないでください! こらタケットぉぉぉ!」
まずイチゴの全身に《超超硬質化》をかける。
イチゴを頑丈の中の頑丈にしたところで、右足首を持って。
「行くぞ、イチゴ!」
「考え直しやがれですよ、タケットぉぉぉ!」
イチゴを振り回しながら、286体の召喚獣の群れに突撃。
そしてイチゴをガンガンぶち当てまくって、召喚獣どもを屠っていく。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「きゃぁあぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「うがががががががが!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あばばばばばはばばばば!!」
286体の召喚獣は、イチゴに吹き飛ばされ、全滅。
唯一残ったザーボンが怒鳴る。
「我が召喚獣たちが! よくもぉぉぉぉぉぉ!!」
「とどめのイチゴ!!」
イチゴをハンマーのように振り上げて、ザーボンに振り下ろした。
ぐちゃりと潰れるザーボン。
「おれたちの勝利だ。イチゴ、ハイタッチするか?」
「……タケト様……わたし……温泉にでも入って心と身体の傷を癒したいです……」
とりあえず、【異空間領域】を出るか。
次元を切り裂いて、〈デウスマキナ〉内へと戻る。
★★★
──〈デウスマキナ〉乗組員の視点──
将軍ルシガが決意の声で宣言する。
「こうなれば仕方あるまい。わしが出る!!」
ロマナナはハッとした。
「そんな、閣下みずからが? お止めください! 閣下を失っては、誰が指揮を執るというのですか!」
「ふっ、止めるな。ロマナナよ。わしもかつては、最前線に出ては敵と戦っていたものだ。いま思えば、生きていると実感できたのはあのころよ。そう、わしの中にも戦闘種族【超人類】の血が流れているのだ」
「……閣下」
「案ずることはないぞ、ロマナナ。わしは必ずや、北条尊人を打ち倒してくる。その時には、上司と部下の垣根をこえ、友として祝杯を上げようではないか!」
「はい喜んで、閣下ぁぁ!」
瞬間。
司令部の壁を突き破って、北条尊人が飛び込んでくる。
飛び蹴りのポーズで。
すなわち、ライダーキックのポーズで。
キックが、ルシガの顔面に命中。
衝撃で、頭部が爆散。
びっくりする北条尊人。
「あ、ごめん。蹴っちゃった」
ロマナナは絶叫した。
「そんなぁぁぁぁ閣下ぁぁぁぁぁ! 北条ぉぉぉ蹴っちゃったって、なんだそれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




