95,「ごめん。おれ、防御力∞なんで」。
──〈デウスマキナ〉乗組員の視点──
ロマナナは『戦闘要員』の中では、最底辺の【超人類】の男だった。
それでも『死体要員』落ちせずに、何とかここまでやって来たのだ。
いまは〈デウスマキナ〉の司令部で、将軍ルシガ付きの補佐をしている。ようは雑用係だが。
監視システムによると、地球人の北条尊人がすでに侵入しているようだ。
地球先遣隊を全滅に追いやったという、異常なステータス数値の男が。
「閣下。北条尊人の撃退作戦はどうされるのでしょうか? ステータス∞という報告もありますが?」
三将軍の一体であるルシガは、呵々大笑。
「ステータス∞などという戯言を信じておるのか、ロマナナよ」
「はぁ」
ルシガの脳味噌には、あまり期待していないロマナナである。
「安心せい、ロマナナ。〈デウスマキナ〉様は北条尊人を駆除させるため、『あの男』を連れて来られたのだから」
「あの男とは?」
「その名は、アンダル。あまりの戦闘力の高さに、【超人類】内でも取り扱いに困っていた男だ。奴隷にするための惑星原住民を皆殺しにしてしまうため、長らく〈デウスマキナ〉様によって封じられていたのだ」
「聞いたことがあります。拳を振るうだけで、惑星破壊クラスの衝撃波を起こすのだとか。そんな化け物が暴れて、この母艦は持つのでしょうか?」
「案ずるな。もちろん【異空間領域】で戦わせるのだ」
★★★
──主人公の視点──
〈デウスマキナ〉内に侵入して10分ほど。
広々とした通路をのんびり進むも、敵との遭遇はなかなか起こらない。
雑魚モンスターをやたらと配置していた、あのころのダンジョン群を見習うべきだと思うがね。
通路先の扉を開けたところ、ふいに異次元に入り込んだ。
果てまで虚無の広がる空間で、無重力。
〔あ、タケト様。これは【異空間領域】ですよ。母艦内にこんなものを用意していたとは〕
〔何だか知らんが、次元を切り裂いて〈デウスマキナ〉内に戻るぞ〕
〔なんか来ましたよ、タケト様〕
『なんか来た』の正体は、赤銅色の肌をした小柄な【超人類】だった。
【異空間領域】を飛んでくる。
おれの前で急停止すると、さっそくのドヤ顔でおれを指さしてきた。
「はっはー! 我が名はアンダル! 貴様が北条バケトかぁぁ! 我は地球先遣隊の雑魚どものようには行かんぞ! 貴様は、オギルニアスを倒しただけで悦に入っているようだがなぁぁ! オギルニアスなど、我の手にかかればデコピン一発で屠れたぞ!」
「そういう能書きはいいんで。というか、おれは先に行くんで。あと北条バケトじゃなくて、タケトなんで」
話を聞かない性格らしく、アンダルとやらが突っ込んでくる。
「死ね、バケト! 我が拳を受けてみよ!」
せっかくなので、受けてみた。
アンダルのパンチ──これが通常攻撃のくせに、まさかの惑星破壊レベルの一撃。攻撃力の数値を出せば、億単位にいきそうなぐらい。
なんという凄まじさだろうか。これが【超人類】の底力か。【五魔王族】がまとめてかかっても、このアンダルのパンチ一発で皆殺しにされていただろう。
「おおお!」
「ぐぉぉぉぉ!」
「おおお!」
「ぐぉぉぉぉ!…………まて、貴様。なぜ吹っ飛ばんのだぁあ!? 我がパンチは、惑星さえも吹き飛ばす一撃だというのに!? 攻撃力は138432500だぞぉぉぉ!」
「ごめん。おれ、防御力∞なんで」
「……え、∞? つまり、無限数値?」
「そう」
「……」
なんか気まずい沈黙が漂った。
「そんな話があってたまるかぁぁ! くらえ、惑星破壊パンチの連打を! ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
一発だけで惑星を吹き飛ばす攻撃力億単位のパンチが、マシンガンのように連打されるのだった。これは凄いぞ、【超人類】。
「おおお!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!」
「おおお!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!……まて、貴様。なぜ吹っ飛ばんのだぁあ!? 我がパンチは、惑星さえも吹き飛ばす一撃だというのに!? それが連射されているんだぞぉぉぉぉぉ!」
「だから防御力∞だって、言っているだろ。あのさ、もういいかな。おれは先急いでいるんで。じゃ、ま頑張って」
アンダルの肩をポンと叩き、励ましの合図。
「ふざけるなぁぁぁぁあああ!!《能力上昇》で攻撃力をUP。くらえぇぇぇ、攻撃力380435000の頭突きだぁぁぁぁぁぁぁ」
アンダルからの頭突き攻撃。
その凄まじい破壊力によって、なんと頭部が砕け散った!
アンダルの頭部が。
「あーあ。防御力∞のおれに頭突きしたら、自滅して当然だろ。聞く耳もたないから」
★★★
──〈デウスマキナ〉乗組員の視点──
【異空間領域】での戦いを見届けていた、ルシガとロマナナ。
二人は同時に叫んだ。
「「そんなぁぁぁアンダルがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
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