94,コンビニ行く感覚で。
月サイズの母艦は、〈デウスマキナ〉というそうだ。
近所のコンビニ感覚で乗り込んで、叩き潰してこようと思ったら──
ソフィアからの電話で止められた。
[北条さん、あたしも行くわよ。ダンジョン調査機関の代表として、あたしも【超人類】のメイン母艦に行くべきだと思うのよ]
「もちろんだ、ソフィア。お前も連れていくさ」
[いま、また腹パンして置いていこうと思ったでしょ?]
「……思ってないよ」
地球大統領になって勘が働くようになったらしい。
仕方ない。パーティにソフィアを入れよう。
「で、ミライ乃愛はどうするんだ?」
乃愛は異空間の収納先から、巨大な振り子時計を出した。
『おじいさんの古時計』という感じだな。
短針の位置を確認してから、乃愛は残念そうに言う。
「パパ。残念なのですが、乃愛は未来に戻るころなのです。バック・トゥ・ザ・フューチャーなのです」
この古時計は、タイム・トラベルを行うためのスキルが具現化したものか。
「まてよ。過去を変えたら、未来も変わるんだろ。お前がやりたい放題したせいで、未来はとっくに変わったはず。どこに帰るんだ?」
「世界線は分岐しただけなのですよ。言うなれば、パラハラ・ワールドなのです」
「それを言うなら、パラレル・ワールドだろ」
ミライ乃愛がハグしてきた。防御力∞でなかったら、押しつぶされるくらいの力で。
「過去のパパ、しばしのお別れなのです! また遊びに来るのですよ!」
かくしてミライ乃愛は、未来へと帰っていった。
過去を引っかき回したあげく、〈おもてなし騎士団〉に地球を統治させてから。
「ドロシーの娘だけはある」
〔そして、タケト様の娘さんでもありましたねぇ~〕とイチゴ。
小市民の代表みたいなおれに対して、なんて言い草だ。
しかし、ミライ乃愛という戦力がなくなったのか。
どうせなら〈デウスマキナ〉を潰すまでいればいいのに。
瞬間移動で、〈おもてなし騎士団〉の本部に戻る。
ソフィアを拾いに来たのだが、アーダも行く気満々だった。
「師匠。私もお供する」
「まぁ言うと思った」
「ところで乃愛はどうしたのだ?」
「未来に帰った」
ガッツポーズするアーダ。
まず行先が宇宙空間なので、《環境適合》スキルをアーダとソフィアにかけておく。それから瞬間移動で向かうわけだが──大気圏の外は初めてだな。
本部から出て、月軌道にいる〈デウスマキナ〉を視認しつつ、
「じゃ、行くぞ~」
ソフィアが止めてきた。
「ちょっと待って。そんな近所のコンビニ行く感覚で大丈夫なの? 作戦とか練らなくていいの?」
「教訓になる話をしてやろう。かつておれは自殺の作戦を立てて、とある樹海ダンジョンに入った。ドラゴンに喰われる、という揺るぎない計画だった。
ところが──数秒後にはステータス∞の人になっていた。作戦とか考えても、どうせ台無しになるんだよ。コンビニ感覚が最強」
パーティを引き連れて、瞬間移動。
〈デウスマキナ〉の中に出るつもりだったが、弾かれた。
結局、〈デウスマキナ〉の表面に出る。
地球から見ると滑らかだったが、こうして現地で立って見ると、かなり凸凹しているな。しかも規模がでかいので、大峡谷にでも迷い込んだ感じ。
「重力は中心に向かっているのか。よし、中枢にいるだろう〈デウスマキナ〉の本体を捕まえて、宇宙の彼方にぶん投げるぞ」
メキシコシティに来た母艦〈アギト〉と同じ攻略法でいいんじゃないかな。
アーダが挙手する。
「師匠。何かゾロゾロ出てきたのだが」
ゾロゾロと出てきたのは、まさかのドラゴン。ただ樹海ダンジョンで見た懐かしいドラゴンではなく、こちらは機械化装甲されていた。
機獣竜というらしい。〈デウスマキナ〉の防衛機構みたいなものか。
ちなみにステータスを確認した限り、機獣竜一体でA級ダンジョンのラスボス・クラス。
そんなのがゴキブリみたいにウジャウジャ出てきた。
「経験値稼ぎのためのボーナス・ステージか!」
アーダが跳躍し、《焔焔斬戦》を発動。すべての物質を燃やす炎をまとったチェーンソーを振り回し、機獣竜を燃やし斬っていく。
あっというまに50体ほど破壊。
一方、ソフィアはS級の攻撃魔法の超コンボ(66発)を発動。
何とか機獣竜を3体同時に倒した。
「2人とも、なかなかやるな」
〔タケト様。これは『ここは私たちに任せて先へ行け』展開ではないですか?〕
「あ、なるほど。じゃ、アーダ、ソフィア。ここは任せたぞー」
先に行く。
★★★
──アーダの視点──
アーダは、機獣竜を300体ほど撃破した。
ところが、まだまだ現れてくる。もしかすると母艦のどこかで、無限増殖しているのかもしれない。
(ボーナス・ステージと言っている場合でもなくなったか)
ソフィアと背中あわせに立つ。
あっという間に、1000体近くの機獣竜に取り囲まれてしまった。
「ソフィア。さすがに私達だけでは限界のようだ」
「そうね。ここは北条さんの力が必要ね。北条さん、出番よ」
「師匠、頼む」
アーダとソフィアは周囲を見回し、同時に気づいた。
「なんか師匠がいない! 先に行ったようだ!」
「おかしいでしょ、この展開で先に行くとか!」
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