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93,終末世界になっても、カタログギフトは有効なのだろうか。

 


 ──主人公の視点──


 出産祝いの代わりに、月サイズの母艦が来たらしい。


「ロクでもない」


 さらに言うと、知らない間に〈おもてなし騎士団〉が地球を獲っていた。


「誰がそんなことを求めた。おい、アーダ」


 メキシコシティの〈おもてなし騎士団〉本拠地に戻ってから、事情を聞かされた身にもなって欲しいね。

 アーダは『忸怩たる思い』と言いたげな様子で、


「師匠。これは全て、私の監督不行き届きだ。師匠の娘さんの暴走を止められなかった。師匠の娘さんの、師匠の娘さんの、師匠の──」


「分かった分かった、乃愛のせいなのは分かった。で、ソフィアは何でいるんだ?」


 割と久しぶりのソフィアである。久しぶりの金髪ツインドリル。


「北条さんの娘さんと一緒に瞬間移動してきたのよ。乃愛ちゃんのこと聞いて、ビックリしちゃったわ。あ、これ出産祝いよ」


 カタログギフトを渡してくるソフィア。

 終末世界になってもカタログギフトは有効なのだろうか。


「どうも。そういや、地球大統領になったんだってな。大出世じゃないか」


「地球大統領なんていう役職はないわよ。流れでダンジョン調査機関の長官になってしまった、という話で。【超人類】の問題が片付いたら、辞任を表明するわ」


「で、乃愛は?」


 本拠地に、乃愛がいない。


「ママに会いに行く、とか言っていたわよ」


 乃愛(赤子のほう)を出産したドロシーは、37秒で通常状態に回復した。

 おれは、乃愛(未来から来た女児のほう)が気になったので、こっちに戻ってきたというのに。

 瞬間移動の行き違いになったのか。


「うーん。ちょっと見てくる」


≪万里の長城ダンジョン≫に瞬間移動したとたん、高次元エネルギー弾の乱れ打ちに遭遇した。


「なんだ、なんだ?」


 見ると、乃愛(女児のほう)がダンジョン壁にめり込んでいる。


「あ、パパなのです。ママ、パパが来──」


 ドロシーが乃愛(女児のほう)の前に瞬間移動。光速で連続蹴りを食らわし出した。

 うーん。なんだ、この絵面的に怖い展開は。


「ドロシー。それ、おれたちの子」


 ドロシーは赤子の乃愛を抱っこしていた。抱っこしたまま、さっきは高次元エネルギー弾を乱射していたらしい。


 蹴りを止める。

 それから赤子の乃愛を愛おしそうに見て、女児のほうの乃愛をにらんだ。


「わたくしの乃愛を見るなり、『不細工なのですね』とほざいた、この失礼な女児がですか?」


 新生児って、きほん不細工なものだろ。


「そう、その失礼な女児も乃愛。未来から来たんだよ。紛らわしいから、そっちをミライ乃愛と呼ぼう」


 とにかくミライ乃愛が暴言を吐くものだから、ドロシーにボコられていたらしい。

 といっても防御力∞なので、ノーダメージだが。


 ミライ乃愛が立ち上がり、瓦礫を払う。


「この時代のママは優しいのですね。乃愛の時代のママは、究極の拷問スキル《無限地獄(アーケン)》で叱ってきたものですが」


 ドロシーはミライ乃愛を値踏みしてから、おれを見やった。


「尊人。どうやら、わたくしたちの教育は間違っていなかったようですね」


 とりあえず、何をもって判断したのだろうか。


「それよりミライ乃愛。勝手に地球を統治下に入れるなよ。メンドーなことをしてくれて」


 ドロシーが小首を傾げる。


「地球を支配したのですか? かつてわたくしが企んだことを、あっさりと達成してしまうとは。さすがですね尊人」


「いや、ミライ乃愛がやらかしたことだから」


 これという理由もなく、脳内でイチゴが言う。


〔タケト様、タケト様〕


〔なんだ?〕


〔いえ、何でもないです〕


〔は?〕


〔最近、わたしのこと忘れている疑惑があったものですから。イチゴを忘れないでくださいよー、タケト様。誰がステータス∞にしてあげたと思っているんですかー?〕


 そうだった。諸悪の根源は、コイツだった。本来なら、おれはとっくのとっくのとっくの昔に、ドラゴンに喰われていたはずなのに。


〔そうしたら、【超人類】の相手などせずに済んだのに〕


〔なに言っているんですか。タケト様がいなかったら、もう地球は2回は滅ぼされていますよ。1度目はドロシーさんに。2度目は【超人類】の先遣隊にですね。自殺する代わりに、地球を陰ながら救う英雄になれたのです。わたしに感謝ですね、タケット!〕


 タケットは、久しぶりにイチゴをぶん殴りたい。


 ドロシーがまとめた。


「地球が滅ぼされては、子育てに差し支えが出ます。尊人、【超人類】とやらを全滅させてきてください。わたくしは、赤子の乃愛に母乳をあげてきますので」


「……了解」


 ドロシーを見送ると、イチゴが言う。


〔さっそく、ドロシーさんの尻に敷かれているようですね〕


〔何も言うまい〕



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