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神取合戦  作者: 犬の塊
壱章
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壱章 八

 白兎神の口から出た言葉は、私達を期待させ、不安にさせた。彼が何をしようとしているのか、少なくとも私には判らないからだ。然し其れを顔に出してはいけない。彼に悟られたなら私はその時に又た言い訳をせねばならない、そんなことがあってはならない。


「それで、話とは」


 私の心配を他所に八咫烏が又た聞き返す。話次第では放してやらないこともない、と付け足して。あの八咫烏の云うことである、何かしらの考えがあってのことなのだろう。私は密かに其れに便乗することにした。


「えー、と。だね。先ず確認を取りたいな、ボクが捕縛された理由は、あの事で構わないんだよね」

「ひょっとすると君は、其れ以外に何か理由が思い浮かぶのかい」

「いやあ、はゝゝ」


 すかさず尋ねた八咫烏の言葉に誤魔化す様に笑ってみせると、私達の顔色を伺うかの如くこちらに視線を向ける。状況が変わらないことを確認すれば、白兎神は又た一笑いして、もう見たくないと云う様に俯いた。


「まぁ、ね、あの山を壊した事は謝るよ。でもほら、さ、」

「待った、違う。すまない」


 八咫烏が「違う」と口にすれば、白兎神は妙ちきりんな声をあげて今一度顔を上げる。


「けれどボク、其れ以外に悪さなんてしてないよ。何を話すって云うの」


 彼等の様子を見ると、すれ違いとはこうして起きるものなのだなと、私は何だか一つ理解した様な心持に成った。


「私達が知りたいのは、君の通っていた教会の話だ。──まさか、君。何も知らないとは云うまい」

「あゝ、彼処の話かぁ。え、でも其れを話したら君らはボクを放してくれる? なんで?」


 確かに、何も知らない者ならば、態々自分から教会の話を聞きに行くなどは入信者と思われるのだろう。普通に話を聞くならば、だが。私はこれまで教徒を捕縛して入信する者の話を聞いたことが無い。


「いゝから、ほら。話せば出してやろうじゃあないか。ね? おいぬさん」

「おや、君、善いのかい」

「別に善いじゃない、兎の一羽くらい。僕は構わないよ。もう暗示は取れた」


 暗示。はて何の暗示だろうか。いや大凡は「教会」の施したものなのだろうけれど、八咫烏は何を持って白兎神が暗示に罹っていると確信したのか。いずれにせよ彼が安全だと云うので、其れで善いだろう。善いのだ。


「それで? ほら」


 何時にも増して八咫烏は急かすじゃあないか、そんなにも彼等の事を頭に入れたいのだろうか、どちらにせよ彼は忘れっぽいのだから、直に抜けてしまうだろう。


「いゝかい、こう云うのは、ゆっくり待つものなんだよ。何を焦っているんだい」

「えぇ、でも早く聴きたくないかい?僕は聴きたいよ、あんな腑抜け者の話を」

「腑抜け者って、君。あれに何の怨みが有るのさ。親でも殺された訳じゃあるまいし」


 再び始まってしまった私達の口闘いに、白兎神は入る隙もなく唯眺めている。──と、誰かの腹の虫の鳴く音が私達に聞こえた。少なくとも、私ではないことは直に判った。それは先刻さっき、八咫烏の作った卵焼きを多少なりとも食べたからである。八咫烏の方を見た、彼もまた目を丸くさせて向けた視線を合わせる。どうやら違うらしい。と、なれば私達は考える必要も無かった。


「──えー、あー。起きた時から、実に美味しそうな匂いがしたもので。つい」


 一人一柱と同時に視線を向けた先の白兎神は、腹の音を誤魔化す様に苦笑いを浮かべながらそう告げた。成程、彼ならば違和感は何も無い。


「如何だろうか、君が安全だと云うのなら、食事でもして話すのは」

「わァ、善いね。彼にも僕の手料理を食べさせてやろう。美味しいよ」


 何を云うか、八咫烏の料理はほとんど冷凍食品じゃないか。だがその事は言わないでおこう。折角の彼の期待を裏切っては料理の味が損なわれてしまう。喩え冷凍食品でも。


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