何度でも挑めばいい -4-
タルム=サバサは、山道を駆ける。
大きな瓢箪を背負い、それでいて汗を一つもかいてはいなかった。
彼女は足場の悪い道を、ピョンピョンと軽々しく、飛び跳ねながら前へと進む。
まるで、華聯な野兎のようだ。
そして、夜が明けようとしている。
空気が朝のものになりつつある。
冷たく、清らかな川水を口に含むような清々しさが口内に広がる。
鳥々が、そこらで歌声を響かせ合って。
山肌が、日光の色を帯び始める。
タルム=サバサは山の頂上へと向かっていた。
タルムは【彼】の気配を強く、その身に感じていた。
それは、間近に【彼】が存在していることを意味する。
そして、同時に、タルムは胸の内を蛇にでも巻き付かれたような、息苦しさを覚えていた。
どうやら、【彼】は良くない方向へと、その足を進めたらしかった。
一昨日から微塵に感じ取れ始めた、【彼】の気が、禍々しいものに囚われていることに
タルムは既に気づいていた。
気づいてはいたが、決して信じたくはなかった。
(どうか まだ 戻れる ところに)
タルムは、願う。
かつて自身の願いの為に、犠牲としてしまった【彼】。
せめて、元居た世界に戻してあげたい。
遠く、木々の間に開けた空間があるのが見えた。
それは、元々あった荒地が、倒された木々達をもって、
更にだだ広く開けてしまった空間のようだ。
そこは、沢山の血痕で溢れ返り、その周りを囲む木々も固まった血液で
どす黒く染まってしまっている。
その中心に 【彼】 が居た。
「 リクト! 」
タルムは【彼】の名を叫ぶ。
呼ばれた、少年はゆったりとタルムの方を振り返り、
哀しそうに微笑んだ。
少年は血に染まった右手に、生首を携えていた。
それは、ディアボロ=ストラヌスの生首だった。
ディアボロは安らかな表情で、少年の手中にて息絶えていた。