09
その後、アリーゼとシズマは、クイン達と屋上への階段途中で気絶させたエイスの四人を拘束。警察へと通報し、引き渡すことにした。そのあたりの経過は、別段特筆することもないため、ここは割愛する。
四人を乗せたパトカー2台が、戦場となった廃ビルから遠ざかっていく。その様子を見送りきったところで、アリーゼはそっと近くの壁へとよりかかる。
「…さすがに疲れた」
三度にわたる襲撃と、最後の戦闘を連続でこなしたのだ。さらに最後はシズマが来なければ本当に危なかった。張り詰めていた精神がようやく緩んで、どっと疲れが来たのだ。
「なんか、災難だったな」
その傍らに立ちつつシズマが苦笑を浮かべる。とはいえ、アリーゼ的にも疑問は残る。なぜ、シズマはこの場所に駆けつけて来たのか。シズマの索敵ならば見つける事は出来るだろう。けれども、そもそも探そうと思わなければわかるはずもないのだ。
「シズマ、なんでここを探すに至った…?」
だから、アリーゼはそのことを尋ねていた。それを聞けば、シズマは一瞬キョトンとした様子を見せてから、苦笑混じりに告げる。
「いや、だって。ホテルに帰ったら、部屋を引き払ったって受付が言うじゃないか。これは、もうただ後じゃないなって、即座に思ってな」
「あぁ…」
あの時点では多少怪しんでいたものの、シズマが偽者と言う確かな確証はなかった。ゆえに誘導されるがままに従ってしまったわけだが、それがある意味相手によっては仇になったと言うことか。きっと、こういうのが悪運が強いというのだろうな、とぼんやりと思うアリーゼ。
「いずれにしても本当に助かった。やっぱり、私はシズマと一緒の方が良い」
「どうしたよ、急に」
「ん、なんとなく?」
アリーゼの言葉に、シズマが物珍しそうな表情を浮かべる。その視線に、すっと自分の方からは視線を逸らすアリーゼ。
「まぁ、とりあえずどこか宿をとろうか。さすがに野宿はイヤだろう?」
「ん」
ともかく今回の一件はおしまいだ。もしかしたら、また誰かが似たような事をするかもしれないが、それでもシズマと一緒なら絶対に何とかなる。それは確信するアリーゼだった。
と、それはそれとして。
「アリーゼ、これなんだ? なんか大量のぬいぐるみが車に乗ってるんだが」
「あ…」
移動用の車に乗り込むところで、シズマが車内のぬいぐるみを指差し、アリーゼは思い出したようにスーっとシズマから再度視線を逸らした。
「えっと。昼間、暇つぶしにゲームセンターで、射的ゲームをやって取ってきた」
「取ってきたって、そんなに取ってどうするんだ…」
呆れたようなシズマの声に、アリーゼはシズマから視線を逸らしたまま顔を見ようともしない。だが、それにも構わずシズマは言葉を続ける。
「そもそも、俺たちはフリーランスの仕事であちこちするのに、そんなに持っていけないの知ってるだろう。荷物が嵩張って困るのはお前だぞ?」
「…う、うん」
「と言うか、そもそも射的ゲームでドンだけ全力だしてるんだ…。てか、むしろやりすぎだって」
「むぅ…」
その後もしばらくシズマの説教が続いた。全て筋が通っているので何も言えず、結局ぬいぐるみは結局一個残して、全部ゲームセンターに返却することになった。
こうなることは、ある意味予想通りではあった。当然だ。本物ならこうすると言ったノ葉ほかならぬアリーゼなのだから。
でも、そこまで言わなくても良いじゃないか。やはりシズマは本物が一番ではあるけども、ちょっとだけ本物より甘かった偽者も悪くはなかったかも?とか、説教されながらちょっとだけ思うアリーゼであった。
Episode-END




