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Bayonet Buddy ~銃剣コンビの事件録~  作者: えむ
Episode03 奇術師嫌いのリベンジャー
22/27

04

「アリーゼ!!」


 ジャック・ザ・ナイフが撤退してから間もなく、泊まっている部屋の中へとシズマが駆け込んできた。そして、部屋の中の惨状…というほどひどくはないが、めちゃくちゃになったシーツと、割れた窓ガラスに目を丸くする。


「何があったんだ…って聞くまでもなさそうだな。俺も自販機の傍で襲われたんだ」


 そう言いながら部屋に入ってくる。ジュースを買いに行っただけにしては帰りが遅いと思っていたが、そういうことなら一応の納得も出来ると言うものだ。


「それにしても一日で二度も、しかも違う奴が襲撃か。ここまで来ると色々考えないといけないな。下手すると周りを巻き込みかねない」

「実際、そうなりかけた」


 うまく大きな騒動にはならないようには対処できたが、次も上手くいくかはわからない。しかも相手の力量を考慮するに、周辺被害を気にしながら戦うには少しばかりにも重いきもする。それくらいには、どちらも手強かった。


「……となると、ここは引き払った方が良いかも知れないな」

「ところで、シズマを襲ってきたのは、どんな相手?」

「ん? あぁ…」


 アリーゼの不意の問い掛けに、シズマがそちらを振り返る。


「異能者、だったな。たぶん、あれは念動系の類だろう。問答無用で作用するタイプではなかったようだけどな」

「………」

「でも、まずは受付に行ってチェックアウトしよう。連中がまた来る可能性を考えれば、迎え撃ちやすい場所に移ったほうが良い」

「ん。それは同感」


 やりあうにはこちらも全力を出さなくてはいけない。それには相手の庭に入らないようにする必要がある。相手にペースを握られれば、それだけで不利になる要素が増えるからだ。


「そうと決まれば早い方が良い。すぐに準備しよう」

「わかった」


 まずは場所を移す。そうすることにして、アリーゼとシズマの二人は場所を引き払う準備を始める。

 それから30分後。2人はレンタカーを使って、迎撃するための場所へと移動していた。ひとまず街の地図を開いて、目星をつけたのは、街のはずれ。シズマの提案で、こういった事態に打ってつけとも言える廃ビルなんかが見つかるだろうという話になったのだ。

 程よく閉所で周辺からの射線も通しにくく、さらに人がいない場所ともなれば自然とそういう場所になってしまうのは、もはや定番のようなものだ。もちろん無許可の不法侵入だが…。


「それにしても、まさかぬいぐるみ持って行っていいとは思わなかった」

「今回だけだぞ? 荷物嵩張って困るのは俺たちなんだからな」

「…荷物が嵩張る。そこまで考えてなかった」

「おいおい、しっかりしてくれよ」


 アリーゼの言葉に、シズマが笑う。

 流れていく景色を見守りながら、そんな他愛のない会話をかわす。時刻は、まだ昼なので明るい。こうしていると、のどかにすら感じられるのだから、環境と言うのは本当に不思議なものだ。

 それから走り続けること二十分ばかり。すぐに2人は目的にかなう場所へとたどり着いていた。いい感じの街外れで、空きビルなんかもチラホラ見える。そんな中から、シズマが適当に空きビルの一つを指差す。


「見えてきた。どうだ? あの場所なら、迎え撃つのにもいいと思うんだが」

「ん、悪くない」


 周囲より少し低めのビルだが、それゆえに隣のビルの屋上等からは狙いにくい。通りに面した部分は狙いやすいだろうが、奥に引っ込んでしまえば狙撃の心配はいらないだろう。さらに両側のビルは、まだ使われてもいるようでもあった。これなら隣のビルから狙われる心配も格段に減る。


「それじゃあ、篭城戦といくか」

「待つのは嫌いだけど、今回ばかりは仕方ない」


 どこか不満げな表情のまま答え、廃ビルの中へと2人で入っていく。まずは3階くらいへ。そして階段出入口の近くにあった古ぼけた案内図から、篭城場所の目星をつけ、さっそく移動する。ビルは商業だったらしく、空き部屋なんかを確認すると幾つもの仕事机が並んでいたりしていた。


「これなら、守る側が有利だな」


 そんな事を言いながらシズマが少し先を歩き、そのあとにアリーゼが続く。廊下はやや薄暗いが、他に人の気配は今の所はないように思えた。

 が、さらに進んだところで、それは起こった。とある部屋の前を通り抜けたところで、不意にピピッと微かな電子音が響いたのだ。


「……シズマ!!」

「どうした? ……っ?!」


 アリーゼが警告の声を上げ、シズマが振り返る。直後、ドン…と言う重い音と共に廊下の天井部分が崩れ落ちてくる。だがアリーゼは、すぐにそれに気がつき、その場から飛退いたために瓦礫に潰されるということはなかった。


「大丈夫か!?」


 ぱらぱらと音を立てて小さなコンクリート片が落ちてくる中、瓦礫の向こうからシズマの声が響いた。どうやらシズマの方も上手く回避はしたようだ。


「ん、大丈夫。シズマは?」

「俺の方も大丈夫だ。だが、これは…」

「…完全に読まれてたっぽい」


 何気に大掛かりな罠だ。事前に準備をしていたとしか考えられない。となると、自らここに飛び込んでしまったということになる。


「でも、妙。さすがにここへの移動が読まれるとは思えない」


 だが、こちらとて突然移動する事に決めて、ここを選んだのもなんとなくだった。行動や会話から推測したとしても、あまりにも先読みの的中率が高すぎる。この場所にくると推測できるだけの情報は大してなかったはずだ。


「確かに引っかかるな。……とはいえ、そうなるとすでに待ち伏せされている可能性が高い。まずは合流しよう。多少迂回すれば、すぐに会えるはずだ」

「ん…わかった」

「気をつけろよ?」


 そんな声と共に瓦礫の向こうの気配が遠ざかっていくのを感じる。どうやら移動を開始したようだ。こちらもさっさと動かなくては。

 アリーゼもすぐさまその場から駆け出していた。案内図を思い出し、シズマが向かうと思しき方向を予想しつつ、ビルの廊下を抜けて行く。そして、廊下からとある事務室へと入ったところで、その足が止まった。


「いらっしゃい。お待ちしてたわ。|双銃の奇術師≪ダブルガン・トリッカー≫さん。分断すれば、きっとここを通ってくれると思ってたの」


 アリーゼが入った入口の逆側。事務室のちょうど対角線上の場所に一人の女性の姿があった。ゆったりとしたワンピースドレスに身を包んだ歳若い黒髪セミロングの女だ。そして、その姿にはアリーゼも見覚えがあった。


「クイン・スピネット」

「あら、覚えていてくれたのね。嬉しいわ」


 アリーゼがその名前を呼べば、相手の女性―クインと呼ばれた女は嬉しそうに微笑む。

 クイン・スピネット。彼女もまた、以前アリーゼによって逮捕された犯罪者である。念動の異能を持っており、掻い潜って無力化するのにかなり苦労したのを覚えている。


「なんでこんなところにいる?」

「なんで? それはもちろん、あなたに仕返しをするためよ」


 軽く腕を組み、妖艶に微笑む。


「これでも、あなたにやられるまではそれなりに名の知れた有名人だったの。でもね、あなたにやられてそれまでの実績は全て水の泡になった。そして裏の仕事も来なくなっちゃってね。状況を好転させるには、一度負けたあなたを下すしかないと思ったのよ」


 そう言いながら、すっとクインが片手を上に動かす。それと同時に、事務室の机が一つ宙へと浮かび上がる。


「さぁ、私と遊びましょう」


 すっと手を前へと動かす。それと共に浮かび上がった机がアリーゼ目掛けて放たれた。

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