01
「集まってもらったこと、感謝する」
暗いビルの一室にて、4人の人影が集っていた。いずれも、その道では名の知れた仕事人だった。だが今は違う。あることがきっかけで、全員が全員廃業に近い状態に追い込まれていたのだ。
「我々は既に一度、奴の手によってどん底までたたき込まれた」
だが、それでも不屈の精神をもって再度立ち上がろうとしていた。今ここに集った面々の中にある目的はただ一つ。こんな状態へと陥れた相手への復讐だ。その復讐を経ることで、ようやく再起の道が開ける。…と、少なくとも彼らは思っている。
「だがその涙の日々も終わりだ。我々は奴へ復讐するためだけに、さらなる力を磨いてきたのだ。それをもって、今度は我々が奴をどん底にたたき落としてやろうではないか!!」
一人が手を前に出す。それに呼応するかのように、一人、また一人と、手を重ねていく。
「やるぞ!!」
「「「おう!!」」」
即興のメンバー同然ではある。が、今…彼らの意思は間違いなく一つになっていた。ただ一つの共通の目的を果たすため、4人の復讐者たちが動き出そうとしていたのだ。
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その日、アリーゼは珍しくオフだった。いや、程よくオフの日はそれなりにあったりするのだが、ともかく依頼もなく、珍しく厄介事にも首を突っ込むこともなく、実に平穏と言える状態だった。シズマがいたら、明日は雨かな?とか言ってアリーゼにド突かれているところだろうが、肝心の当人は現在別行動中。
ともかく、そんなこんなでアリーゼは1人で時間を持て余していた。あまりにも暇なので、適当に街をぶらつくことにはしたものの、残念な事にオシャレとかにはほとんど興味がないため、ウィンドウショッピングを楽しむような事もない。普段出向く場所といえば、消耗品…主に弾薬の補充のためのガンショップか、食料の補充のためのスーパーか、と言った所である。
「………1人だと退屈」
ポツリとそんな呟きが漏れる。普段であれば、こういう時はシズマがどこか適当に連れ出してくれたりするだが、先も述べたように今日はシズマは私用で別行動中だ。
「…むぅ」
いつからだろうか。昔は、こういった事を考えることもなかった気がする。だが、いつのまにかそのあたりの感性も変わったような気がする。言い方は悪いが、以前なら必要とは思わなかったことを楽しむようになった気がする。そのきっかけは心あたりがある。言うまでもない。
が、それはそれとして問題は現状だ。つい先日に傭兵の仕事を果たしたので、今は仕事もない。ないわけではないが、傭兵の仕事は危険ゆえに一度完了すると、次の依頼をうけるのにインターバルを置かなくてはいけない決まりになっている。常にベストな状態で依頼に赴けるように、とのギルドのホワイトかつ実に粋な計らいなのだが、アリーゼ的にはちょっと不満な要素である。
「…ほんとにどうしよう。こういう時は、遊ぶのがいいってシズマは言ってたけど」
そもそも何をして遊ぶか。それが問題だ。そもそも自分は娯楽にも疎い。シズマに言わせれば、世間知らずの部類に入るそうで、最近自分でもそのあたりは少し自覚し始めてはいる。自覚したところで、どうにかできるものでもないのだが。
「遊ぶ…。遊ぶ…」
考える。こういう時、シズマならどうしたか。どこに連れていってくれたか。そして、ふと顔を上げると、都合よくゲームセンターが見えた。
「………」
ゲームセンター。そこが遊ぶ所である事は自分も知っている。それこそシズマに連れられて出向いた事が何度かある。
ここなら退屈しのぎになるかもしれない。そんな思いで、中へと足を進めようとしたところで、アリーゼはふと足を止めた。そして、静かに後ろを振り返る。
「…ん……」
視線を感じた。ただの好奇とか、あの子かわいいなとか、そういった類の視線ではない。何者かの、頭の中で警鐘が響く類のよくない視線。とはいえ、あちこちで色々やらかしてる身、これ自体はアリーゼにとって、そう珍しい事ではない。
恐らくだが対象の距離はそう近くはない。どちらかというと遠くからこちらを見られているような、そんな感じ。
何か仕掛けてくるかと思ったが、そうではないようだ。今は様子見と言った所だろうか。最も、昼間の街中。よっぽどの馬鹿でなければ、白昼堂々仕掛けて来ることはないだろう。
少なくとも今は大丈夫。そう判断したアリーゼは、1人ゲームセンターの中へと入って行くのであった。
そして1時間後。
「…出禁になった」
ぬいぐるみを両手一杯に抱えて、ゲームセンターから出てくるアリーゼの姿がそこにあった。
中にあった射的のゲームで荒稼ぎをした結果、あんたプロだな!?と追い出されてしまったのだ。傭兵の中でもトップクラスのガンナーにとって、射的ゲームなど造作もないのだが、それが仇になった瞬間であった。もし、この場に相方のシズマがいたら、いい感じにブレーキをかけてくれたのであろうが、重ねて言うが本日は別行動中であった。
「…でも問題はない」
なぜなら良い物を一杯ゲットできたから。けれどもこのままでは身動きが取れない。とりあえず荷物を置いてこようかと、一旦宿に戻ろうとしたところで
「ここにいたのか、アリーゼ」
「ん?」
よく聞きなれた声が聞こえ、振り返る。そこにはシズマの姿があった。アリーゼが振り返ると、軽く手を上げて近づいてくる。
「また、変に一杯持ってるな。いったい何をしたんだ…?」
思いっきり怪訝な表情を浮かべるシズマに、アリーゼはいつもと変わらぬポーカーフェイスの表情を向ける。
「暇つぶしにゲームセンターが行って、射的ゲームをやった」
「で、取りまくったと」
「ん、そうなる」
事情を説明すれば、シズマが呆れた表情を浮かべる。それを見て、やはりやりすぎだったのかと一瞬思うアリーゼであった。
「お前なぁ…。まぁ、いい。その荷物を持って帰るんだろう? 俺も半分持つよ」
「………。…ん」
シズマが片手を差し出すのを見て、手にもったぬいぐるみの半分を受け渡す。それでも数が数なので、それぞれの両手が塞がるくらいにはある。アリーゼが己の腕をフルに生かした結果である。
「よし、じゃあいくか」
「そういえば、シズマ。用事はもう終わり?」
「ん? あぁ、片付いた。だから合流しようと思って来たんだ」
街の通りを二人揃って並んで歩く。それぞれ両手に抱えたぬいぐるみのせいで人目を引くが、それをいちいち気にする2人でもない。
そのまま大通りに沿って歩き、とある路地へと曲がる。
「そっち?」
「あぁ、こっちが近道だからな」
ちょっと細いビルとビルの谷間を行く路地だ。道幅は狭く、横に動ける幅はあまりないが、真っ直ぐに伸びており、正面を向けば、宿がある大通りが見えている。なるほど、確かに近道のようだ。
そのまま路地を進んでいく。そして、ちょうど道の中間あたりに来たところで、おもむろにアリーゼがハンドガンを抜いて、後ろへと銃を放った。
響く銃声。それと共に、空中で何かが弾け、足元に弾痕が穿たれる。
「アリーゼ?」
「スナイパーがいる」
そう告げて、アリーゼが振り返る。その視線の先、今いる細い路地を見渡せる向かいのビルの屋上にて、スナイパーライフルを構えた男の姿があった。




