09
「キュゥー♪」
「良かった。ホント、良かった…」
子ドラゴンが嬉しそうに、自分を抱きかかえる女性へとじゃれつき、女性もまた嬉しそうに子ドラゴンに頬を寄せている。
結局ソリュートはシズマの交渉により、自分の命を選んだ。幾ら絶大と言える力があっても、それを振るう事が出来ないなら意味はないからだ。
「この借りは、いつか必ず返させてもらおう」
ソリュートはそう言って、親ドラゴンの洗脳を解いて撤収。そのあとの足取りは不明だ。
恐らく、何らかの形で仕返しにくることだろうが、その時はその時。 今回は、親ドラゴンの身を優先するために見逃したが、次に関わる事があったら確実に潰す。去った後で、さらりと告げたアリーゼの表情がいつになく険しいように見えたのは、きっとシズマの気のせいではないだろう。なんだかんだで、相手の手口はかなり卑怯なものだったのだ。
「しかし、それにしても。ドラゴンが人の姿にもなれると知らなかったな…」
「ん。道理で強いわけ」
親子の再会を見守りつつ、シズマとアリーゼは静かに言葉をかわす。交戦直前と言うタイミングであったためリアクションする暇がなかったが、ドラゴンは人の姿にもなれるというのは驚きであった。再度ドラゴンから人の姿に戻る様を見て、ただただ唖然としたのは言うまでもない。
「あなた達のおかげで助かった。でもごめん。迷惑もかけた」
ひとしきり再会を喜んでから、子ドラゴンの親である女性は静かに頭を下げる。
「気にしなくていい。悪いのはあいつだから」
「まぁ、そういうことだ。最初の襲撃も、俺たちが子供を攫ったと勘違いしたからだろう?」
「そう。そしてそのあとで、あいつにやられた」
最初と2度目で様子が違ったのは、そういうことだったらしい。シズマとアリーゼの2人と交戦した後、子ドラゴンを助けたくはないか?と近づいてきて、一瞬の隙をついて洗脳されてしまったららしい。
「いずれにしても、ありがとう。このご恩は忘れない」
改めて、女性が頭を下げる。何度お礼を言っても足りない。そう言いたげな様子に、シズマとアリーゼは互いに顔を見合わせて、苦笑を浮かべる。もっともアリーゼの表情はいつものようにポーカーフェイスで傍から見れば変わってないように見えるのだが。
「何かお礼を返したいけど、返す手がない」
「それなら、また遊びに来たい。いい?」
女性の言葉に、アリーゼが答える。なんだかんだで、子ドラゴンはアリーゼには懐いていた。そして、しばらく一緒にいたのもあってか、アリーゼ自身もどこか気に入ってしまっていたのである。それゆえの申し出。もちろん、断る理由はない。
「構わない。私たちは、あまりここからは出られないけど。来る分には」
「わかった、じゃあ決まり」
「キュー♪」
嬉しそうに子ドラゴンが、アリーゼの方へと飛び移る。そして、器用にアリーゼの肩の乗れば、ぺろぺろとアリーゼの頬を舐めたりする。
「ん、くすぐったい」
僅かにだが、アリーゼの表情が緩む。珍しくだが、ポーカーフェイスもが崩れていた。
「これで一件落着だな。…結局、俺は好かれなかったが」
子ドラゴンがじゃれつくアリーゼを、ちょっと羨ましそうに眺めるシズマ。ちょっとだけなら、と撫でようと手を伸ばしてみたが、やっぱり威嚇されて結局近づく事も許させなかった。
そんな一部始終を見て、子ドラゴンの母親がやっぱり申し訳なさそうに近づいてくる。
「人間にさらわれてしまったから。だから、どうしても警戒してるのだと思う」
「まぁ、そうだよな。あの街で見つけたきっかけが、そもそもきっかけだしな」
こればかりは仕方ない、とため息をつくシズマ。
「でも、彼女にあの子があそこまで懐くのも不思議」
「アリーゼは特別だからな」
ふっと苦笑を浮かべるシズマ。それから、アリーゼの方へと向き直る。
「アリーゼ、そろそろ行くぞ」
「ん、わかった」
子ドラゴンとじゃれついていたアリーゼだったが、シズマの言葉にそっと子ドラゴンを引き離す。そして、抱きかかえて母親へと渡す。
「今度はちゃんと見てた方がいい」
「あぁ、次からはもっと気をつける」
コクリと母親が頷く。それを見て、アリーゼも満足そうに頷く。そして、別れを告げてから帰路へとつくのであった。
Episode-END




