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Bayonet Buddy ~銃剣コンビの事件録~  作者: えむ
Episode02 子守に始まるビッグハント
14/27

05

謎の襲撃者に襲われた次の日の朝。シズマとアリーゼは、RIAのエージェントであるフェイルと再び合流していた。

 待ち合わせは、街中のパーキングエリア。そこに一台のスポーツカーが止められており、その傍らにフェイルの姿があった。なお、昨夜襲われた件は、すでに報告済みである。


「大変なことになってしまいましたね。本来なら、こちらが襲われる側だったのでしょうが」


 シズマとアリーゼの二人が来ると、フェイルは申し訳な差そうな顔を浮かべる。当初の予定なら、フェイルが子ドラゴンを保護するはずだった。その場合、あの襲撃者はフェイルを襲ったことだろう。だが、予定が狂ってしまったがために、シズマとアリーゼが襲われた。そのことを少なからず気にしているようだった。


「気にするな。少し苦戦はしたが、なんとかなったんだからな」

「ん。過ぎた事は気にしないでいい」

「そう言っていただけると、少し気が楽になります」


 そう告げてから、車の鍵をシズマへと投げて渡すフェイル。


「移動手段にはこの車を使ってください。一応、昨夜の件を踏まえて防弾仕様の特別車を用意しました。恐らくですが、相手は子ドラゴンを手に入れようと、また襲ってくるはずです」

「だろうな。なんせ、それだけのものだからな…」


 ドラゴンの子供。その存在は希少価値も相まって、とんでもないものとなるだろう。だが、親元に戻されてしまえば、一攫千金チャンスもなくなる。なんせ一度攫われているのだ。親ドラゴンも今まで以上に警戒するだろうし、そうなれば再度さらうことなどは不可能に近い。そうなるまえに、手元に置きたいと考えるのは、容易に想像がつく。


「とりあえず、悪い奴はやっつける。これに限る」

「まぁ、それしかないだろうな」


 振りかかる火の粉を無視するほど、人は良くない。仕掛けて来るのなら、返り討ちにしてやるだけだ。


「現地に着いたら、そこでRIAのエージェントと合流してください。あとは、その人物が仲介してくれますので」

「わかった。何から何まですまないな」

「いえ、こちらとしても。子ドラゴンを親元に返してあげたいですから。それではよろしくお願いします」


 そう言って、フェイルが静かに頭を下げる。


「ん、任された。戦艦に乗ったつもりでいるといい」

「大船じゃなくて戦艦かい」

「ははっ。それは頼もしいですね」


 アリーゼの言葉にシズマが突っ込み、フェイルがおかしそうに笑う。だが、アリーゼの発言は的外れでもない。大船以上なのは確実だ。


「あぁ、それと。今回の仕事は、半ば秘密裏ではありますが、正式の依頼としてフリーランスのギルドへ申請しておきましたので」

「そうなのか? そいつは助かる」


 ギルド経由の依頼であれば、必要経費などはギルドが幾らか引き受けてくれる。それ以外にも仕事報酬がもらえたりもするので、フリーランスの傭兵としては大助かりだ。


「よし、それじゃあ行くか」

「ん、ドライブタイム」


 シズマが運転席に乗り込む。そして、アリーゼが助手席に座ると、アリーゼが抱えていたスポーツバッグから、ひょこっと子ドラゴンが顔を出した。まだちょっと早い、と慌ててアリーゼがバッグの中に押し戻す。


「では、お気をつけて」

「ん、フェイルもまたね」


 開いた窓から、アリーゼが手を振る。そして、シズマは車を静かに発進させる。


「お、なかなか良い車だな」


 アクセルを踏み、街中の幹線道路を抜けていく。加速が良く、ハンドリング性能も優れている。何気にバイクや車が好きなシズマには、すぐに乗っているスポーツカーの良さがわかった。

 道を行きながら、カーナビを確認する。目的地までは、かなりの距離がある。


「結構遠いっぽい」

「まぁ、ドラゴンを人知れず保護するくらいだからな、生活圏から遠く外れているのは当然のことだろうさ。まぁ、結構なロングドライブになりそうだな」

「それならそれでゆっくりするだけ」

「少しは運転変わってくれよ?」

「それはもちろん」


 のんびりと言葉を交わしながら、街の外へと出る。


「そろそろいいかな」

「ん、そうだな。ここまで来ればいいだろう」


 アリーゼの言葉にシズマが頷き、スポーツバッグの蓋を改めて開けると、すぐさまヒョコッと子ドラゴンが顔を出した。アリーゼは、両手で子ドラゴンを抱き上げて、膝の上に置く。


「おうちに連れてく。しばらく我慢して」

「キュッ!!」


 アリーゼが言い聞かせるように告げると、子ドラゴンが短く答えるようにして鳴く。


「なんか言葉もわかってるっぽい」

「ドラゴンは、知能もすごく高いって言うからな。さらにすごくなると魔法とかも使うと言うし」

「……魔法。それはすごい」


 この世界でも魔法は存在する。だが使い手はそう多くはない。異能と呼ばれる力との違いは、その多様性にある。異能が大体一つの特殊能力か、それに付随する効果しか発揮出来ないのに対し、魔法は全く異なる属性の力なども行使できる。さらにその規模や効果の大きさも、やり方次第で幾らでも拡張できてしまい、応用力も非常に高い。魔法の使い手が1人いれば戦局が変わるとまで言われるほどの強大な力なのだ。

 ただシズマとアリーゼが知る中では、知り合いに使い手はいない。それくらい魔法の使い手は少ない。それでもそのすごさは知っているため、ドラゴンの中に使える存在がいるというだけで、注目に値するのだ。


「そいつの親はどんな奴なんだろうな」

「フェイルの話だと、人間には友好的らしいって」

「そいつは人嫌いみたいだけどな」


 そう言ってシズマが子ドラゴンを見れば、ぷいっと視線を逸らされる。そして、すりすりとアリーゼに顔を擦り寄せる。


「………」

「ドンマイ」

「なんだかなぁ…」


 お前なんか目じゃない、と言わんばかりにアリーゼに甘える子ドラゴンに、どこか遠い眼差しをするシズマ。その肩には、哀愁の2文字が乗っかっているように見える。

 なにはともあれ、のんびりとしたドライブの時間は続く。ルートは郊外へと出て、高速道路へと入ったところだった。

 ちなみに窓ガラスはスモークガラスになっており、外から中は見えないようになっている。


「…そういえばアリーゼ。アレ、持ってきたんだな」


 高速道路に入り、速度を上げつつシズマはチラリと後ろを見た。後部座席には大きなライフルケースが一つ置かれていた。普段いつでも使うわけではないが、アリーゼの装備の一つである。


「持ってきた。あいつと遭遇した時に、また弾が効かないと言うのは困る」

「確かになぁ。次ぎやる時は、もっと加減なしでやらないといけないわけか」


 やれやれ、と小さく頭を振る。とはいえ、今は場所が場所だ。さすがに時速100kmオーバーで走ってるのこの状況下で襲撃を仕掛けてくることは、そうそうない…と思いたい。いや、たぶんどこかで仕掛けてくるだろうとは思ってたりするが、今は周辺に他の一般車両もいる。さすがに見境なく襲ってくることはないだろう。子ドラゴンを奪いたいのであれば、相手とて派手なことはできない。

 

「まぁ、今すぐ襲ってくるってことはないだろうし、マイペースに急いで行きますかね」

「ん。今はドライブを楽しむ」

「キュゥ~!!」


 シズマの言葉に、アリーゼが答え、さらに子ドラゴンが同意するように一声鳴くのであった。



「飽きた」

「キュー」

「言うと思った。というか、ホントに仲がいいな、お前ら!!」


 アリーゼに呼応するように反応する子ドラゴンに、思わず突っ込みを入れるシズマ。

 ちなみに走り続けて10時間以上。途中で何度か交替しながら運転を続けて、すでに外は暗くなってすらいる。1人と1匹が退屈ーと文句を言い出したのは、暗くなって外の風景が見えなくなって、間もなくのことだった。

 ちなみに余談だが。アリーゼが運転中は、シズマが子ドラゴンを抱いておく事になる。だが、その時はその時でとても大変だった。もう暴れる噛み付くわ引っ掻くわで、最終的には見かねたアリーゼが厳しくびしっと怒り、それでようやく渋々大人しくなると言った流れであった。それでも、シズマに抱きかかえている間は、決してシズマの方は向かず、不機嫌オーラ全開。その間はシズマは、すごく居心地の悪さを感じていたのは言うまでもない。結果として、シズマの運転時間が長くなりがちになったのも仕方のない話である。


「さすがにこの時間になると車通りも少なくなってきたな」

「ん。もし来るなら、そろそろだと思う。後ろのあれとか、ちょうどそれっぽい」


 シズマの言葉にアリーゼが振り返る。後ろから車が4台。ゆっくりと近づいてくるのが見える。


「一般車両かもしれないぞ?」

「そうかもしれない。とりあえず、少し待てばわかると思う」

「そうだな。それじゃあ俺は、その予想が外れる方に賭けようか」

「じゃ、私は当たる方で」


 ほんの少しだけ、その場の空気が引き締まる。そして、その結果は―――

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