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第十三話 天駆ける紅い彗星 C


「コラー!!これしきで逃げるなぁ!!」


 未生の絶叫など届くはずも無く、爆音を蹴立てて飛び去っていくコルセアたち。


「やった!撃退成功!!」


 一方で湧きかえる雁ノ巣応援団。さらに選手たちにも連絡が入り、特にユーライアスとの練習試合に参加していた面々の喜びはひとしお。


「雁ノ巣め、三カ月で対応したか」


「事前の隠蔽といい対空戦車の動きといい手慣れているな。機甲戦の本職を引っ張ってきたのか」


「ゴールの防衛に自信があるからこその攻撃偏重か」


 観客席から観戦する他校の選手たちも、雁ノ巣の防空チームの技術に素直に感心していた。


 なぜなら通常、それらの要員はレギュラー落ちした選手が回される事が多く、まして対空車両に専門の機甲戦の選手を招聘できる学校は殆どなかったのだ。


 相手の初動を挫いた雁ノ巣の面々の士気はうなぎのぼり。そこへさらに一〇〇式司偵から朗報がもたらされた。


「隊長、ゴール発見!一番北側の宇久島の野球場!!」


「よし、攻撃隊発進!!」


 ベースに待機していた爆撃機のランカスターと九九双、そしてその護衛の紫電改、零戦、隼が続く。


「さあ、陽動作戦開始クマ!!」


 岩国側の偵察員がこちらに張り付いているのを承知で目立つ大型機を送り出す雁ノ巣。隼人の疾風と紗菜の彗星は早いうちに装備を整えて北方海上に待機していた。


「紗菜、こっちはまだ様子見だ」


「うん」


 忍術部からの報告では現在爆装したコルセアは先ほど襲撃してきた分を含めて5機という。残り7機の戦闘機がすべてゴールの防衛に回っていたのでは襲撃する隙がないため、当然分散させる必要があった。


「みんな、誘導するからついてきて!」


「はーい!!」


 戻ってきた一〇〇式司偵に誘導してもらいながら、雁ノ巣の爆撃機を主体としたチームが岩国のゴールがある宇久島に向かう。ルートは一度東に向かってから一気に北上するコースで、隼人たちとは反対側になる格好だ。


「ねえ、どれだけ私たちのところに来てくれるかな?」


「どうせだったらみーんな来て欲しいよね」


「相手は男子だけだったから一杯来るんじゃない?」


 などとランカスターの中で喫茶同好会の小鳥たちが楽し気に囀っていると、鉄也の凍ったように冷徹な声が貫いた。


「来たぞ」


 当然と言えば当然だが敵機の真っ先に探知したのはベテランの鉄也。


「先輩、数は?」


「五」 


 爆撃機の面々は未だ敵戦闘機を発見できておらず、壇兄弟も複数は発見できていたが断言するのはまだ無理な状況。だが鉄也は接近する敵機を全て把握していたのだ。


「その数ならほとんどこっちに向けて来たってことッスよね」


 岩国側は隼人と紗菜に気づかず、爆撃機のランカスターと九九双に迎撃の主力を向かわせてきたのだ。


「戦闘機ぃ~。私たちが落とされたら責任取って全員にパフェおごりだからねぇ~」


「だ、そうだ」


「デビュー戦でスコア稼ぎなんて考えるな、ってことだね兄さん」


「爆撃機と一緒に小遣いも落とされちゃ敵わねえよ」


 軽口を叩きつつも緊張で身震いする兄弟。慣れているからか微動だにしない鉄也。


「仕事をするぞ」


『応!!』


 言葉はあまりに手短だが、信頼を滲ませる強い口調に奮い立ち腹を括る二人。そして雁ノ巣の男たちは勤めを果たすために数に勝る敵に向かって敢然と立ち向かっていった。


「よし、陽動は成功だ」


 陽動部隊に敵の戦闘機の大半が食いついたとの連絡は即座に隼人たちの下に届いていた。


「じゃあ」


「ああ、行くぞ」


 陽動部隊が稼ぎ出した宝石よりも貴重な時間を無為にするわけにはいかない。


「行きましょう、聖子さん!」


「はいっ!らじゃーりょうかい!」


 海面を舐めるような低空で巡行していた両機は一気に加速を開始した。


「ギリギリまで低空維持!」


「見えたら上昇して」


「急降下でズドンですね!」


「そういうこと!!」


 一方、岩国側の基地では攻撃から戻ってきた機体への補給が急ピッチで行われていた。


「敵の攻撃隊と戦闘中」


「相手は?!」


「ランカスターと双軽、一〇〇式と戦闘機は3!」


 鉄也たちの防戦で、岩国側は未だに爆撃機には近づけないまま。確実に撃退するためにはさらに援軍を送る必要があるように見える状況である。しかし。


「補給中の各機への爆装は後でいい!機銃弾だけ補給して直ぐにゴールに戻れ!」


「隊長?!」


「いいか、爆撃機が二(発)と四(初発)しか確認できないなら、単発が来るはずだ!」


「押忍!」


 岩国の隊長は不安を感じて能力低下を承知で二機をそのままゴールの防衛に向かわせた。


「第二次攻撃じゃなくて爆撃型をゴールに向かわせるのか」


「まあコルセアならあれでも空戦できるから」


 爆弾を投棄したまま補充なしとはいえ、空気抵抗を思い切り受ける形状のウエポンラックと、ウエイトのための増槽によって戦闘機としての能力は目に見えて低下してしまっているが、元が戦闘機なので大抵の丸腰の爆撃機より遥かに空中戦で使えるからだ。


 しかしこの時、空中戦を念頭に置いて機銃弾の補給を指示したことで、その分離陸が遅れてしまった。これは先の練習試合で鹿児島の野分が機銃弾の補給をあえてせずにハッタリをかけた判断とは対照的であった。


「急げ急げ岩国。急がないと紗菜が飛んでくるぞーー」


 この時点で紗菜の実力を把握していれば岩国の対応が全く異なっていた事には疑いの余地はない。だが、彼女の実力が満天下に知らしめられたのは正にこの一戦だったのだから、それは全く無理な話ではあったのだが。

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