第十三話 天駆ける紅い彗星 B
続々と離陸していく双方の機体。岩国がF4Uに統一されているのに対して、雁ノ巣は同じ機種が皆無の上に種類も多いことに改めて観客は驚きを見せる。
「偵察機に爆撃機も単発、軽双発、四発。えらく潤沢じゃないか」
「戦闘機は半分。これは清々しいほど攻撃偏重だな」
爆装可能な戦闘爆撃機系で統一しているチームの場合、まず戦闘機率をギリギリの八機まで高めてから制空権を確保し、その後基地に戻って爆装して相手ゴールを叩くというのが常識化していただけに、雁ノ巣の爆撃機の比率が高い布陣は驚きの目で見られていたのだ。
だが雁ノ巣の取った作戦は開始からほころびを見せていた。
「ゴールはまだ特定できない、か……」
自陣に到着した爆撃機への爆弾の搭載は順調に進むが、肝心のゴールがまだ発見できていなかったのだ。
「一〇〇式、状況は?」
「ゴメン隊長!まだ見つかんない!」
「この分だと最後の候補にあるみたい!」
相手の事前の隠蔽工作は手慣れただけあって見事だったためか、雁ノ巣の忍術部の諜報能力をを以てしても特定できていなかった。そのため本番でもしらみつぶしを余儀なくされてしまったのだ。
「了解!とにかく落ち着いて見つけてくれ!」
初めての大会出場で初心者たちは緊張していて本来のパフォーマンスを発揮できないのはある程度予想されていたことだが、実のところもう少し手早く敵ゴールを発見できると踏んでいただけに、爆撃機の面々は焦りを隠せなかった。
「こんなことだったら私たちも出向くんだったクマ……」
練習試合では九九式双軽爆も偵察に加わって経験の乏しさを頭数で補ったのだが、今回試合前に積んだ訓練で一〇〇式の識別能力は大きく向上していたが、本番の焦りで見落としがあったようだったのだ。
逆に優勝候補の一角たる相手の岩国は、その技術をいかんなく発揮していた。
「こちらゴール防衛隊!敵戦闘機飛来!発見された!!」
岩国は最初に送り出した戦闘機を通常のまま、ゴール防衛より先に偵察に続々と送り出していたのだ。見敵においては試合慣れした彼らが先手を打つことに。
「うーん隼人の作戦、今のところ裏目に出てるなぁ」
「そうだね姉さん」
爆撃機が多いということは、当然戦闘機の数が少ないことを意味する。そして爆撃機は敵ゴールが見つかるまで基地に置かず洋上に退避させており、そちらにも護衛をつけていたため、雁ノ巣のゴールの守りはわずかに二機。
「(純)お姉ちゃん!!」
「尚江ちゃん、相手は五!!とにかく減らすの!!」
来襲するコルセアは五機で爆装はそのうち三機。尚江と純は太陽を背にして強襲したが、護衛の二機との空中戦になり、その隙に爆装していた三機は雁ノ巣のゴールに突き進む。
「一気にケリを付けるぞ!」
『応っ!!』
初出場の相手など早々とねじ伏せてやらんとするコルセア。観衆ももう決着はついたものとあきらめムードに。
「さあ、状況はあの時と同じだぞ雁ノ巣」
腕と足を組んで悠然と見守るのは鹿児島はユーライアスの主将、野分。先の練習試合ではこの状況で雁ノ巣のゴールは粉砕されていたのだ。
「三時方向、敵機接近!」
しかし今の雁ノ巣には、ユーライアスとの練習試合には居なかった地上戦力が手ぐすね引いて待ち受けていた。
「早速見せ場到来ね」
双眼鏡で鉄器の様子を眺めるのは機甲戦部の未生。彼女がゴール前の防空を取り仕切っていた。
「それじゃあ高射砲、対空砲火、開始!」
「砲撃開始!!」
雁ノ巣がゴールを置いていたゴルフ場のあちこちに設置されていた高射砲が発砲を開始。たちまち大空に鮮やかな花々が咲き乱れる。高射砲は一門ごとに別の染料が詰められた砲弾が用意されており、どの砲からの砲弾がどこで炸裂しているのか一目でわかるようになっている。
「突っ込むぞ!!」
とはいえ高射砲の洗礼に慣れているコルセアたちは怯まず編隊を維持して突っ込んできた。高射砲は射程は長いが、距離を詰められると有効な反撃がし難く、何より一定高度以下の飛行機には攻撃ができないからだ。
そして戦闘機であるF4Uはその特性を活かしてすぐに高度を落として高射砲の花吹雪を掻い潜ってきた。
「作戦通りね、いくわよ!」
「よしきた!」
上空から視認し難い木々の合間に潜んでいたのは機甲戦部の対空戦車ヴィルベルヴィント。
ヴィルベルヴィントは4号戦車の車体に四連装の対空砲を装備した対空戦車で、容易に位置変更できない高射砲と違い状況に合わせて自在に位置変更が可能。
「なんだと!?」
突如火を噴いた対空砲火の曳光弾の火線に驚くコルセアたち。対空戦車の使用は爆撃機以上に選手の確保が困難なため運用している学校はごくわずか。事前情報も無かったので想定外の事態に面食らっていた。
「クソっ!!」
投下コース上に弾幕が張られたため反射的に進路を変更してしまう。この時点でゴールへの攻撃が阻止されたが、さらに迎撃のために尚江が戻ってきたため、機を逸したと判断し、爆弾を投棄して逃げ帰ってしまった。




