第十二話 いざ大舞台 D
『おお~~~』
会場中からどよめきの声が溢れる。柏葉ルウの急降下爆撃は芸術的な美しさと正確さを併せ持つ極めて高度な技前だったからだ。
「うひゃぁ!さっすが優勝候補!!」
そしてスコアボードに表示された点数も上限に近い高得点。予想されていたことではあったが、多数の後続を残してなお予選突破は確実な点数だった。
そのあともしばらく予選の様子を雁ノ巣の面々は見ていたが……。
「確かにこの選手も凄い事してるのわかるけど、私たちこれぐらいならいつも見てるよね」
「だよね」
「これで予選通過なら辰星さんもいけるんじゃない?」
「え?!」
驚く紗菜に周囲は次々に感想をぶつけてきた。
「だって紗菜っち、あれぐらいならいつもの事じゃない。ちゃめし・いんじてんど!」
「そうだよやれるよ」
「よゆーよゆー」
「は、はぁ……」
周りからの声が半分からかいではないかと思ってしまう紗菜。しかし航空戦競技部のメンバーさえその声に同意を示していた。
「今の辰星さんなら決勝出場いけると思うわよ」
「そ、そこまでは……その……」
「よっし、紗菜。次からは出場してみないか?」
隼人から全く他意の無い笑顔を向けられてしまうと、紗菜は抵抗する気が失せてしまう。
「わ、わかりました……」
(やっぱり紗菜さん)
(岩橋くんからむとチョロいクマ……)
周囲から多くの暖かな目線と二ヤ付いた笑顔が向けられていることの理由が理解できない紗菜だが……。
「その時はもちろん聖子さんと一緒に」
「あ、ありがとうございます!!」
そんな中でも不安げな子犬のような眼をしていた聖子に対するフォローは忘れてはいなかったのは馬上槍試合でも隊長を務めてきた経験故であった。
「他のみんなも、個別競技に関心が湧いたら、次の大会での出場目指してチャレンジしていいからな!もちろん俺たちで指導のツテは探す」
隼人は己の願望であった団体競技の事だけでなく、参加メンバーの誰もが航空戦競技それ自体に興味を持ってくれたらいいと考えていたのだ。
ともあれ、紗菜が次の大会での個人競技出場を公約にしたところで午前の部がすべて終了したと場内アナウンスが入った。
「よっし、観戦はここまで!午後からは俺たちの事前準備開始だ!」
配られた弁当を受け取って昼食をとってから雁ノ巣の面々はは会場を後にした。
「大会の空気は掴んでくれたと思う。午後からは対岸の福江島をバスで一周してから宿に行くぞ」
「みんな、確かに観光だけど、本戦の私たちのゴール設置はあの島なの!」
「だから宿に戻ったら全員でゴールと防空の配置について会議するから、おしゃべりに夢中になりすぎないでくれよ!」
今回のゴールの設置候補は五島列島の南西にある福江島の島内4ヵ所と、北東側の中通島北部、小値賀島、宇久島、野崎島のそれぞれ4ヵ所が協会から指定されており、その中から各チームがゴールの設置場所を選択する。今回、雁ノ巣の初戦では福江島が指定されていた。
ただ、ゴールの位置は決められているが、高射砲の配置は任意にできるので、事前に現地を下見しておくのは作戦を立案する上で重要なことだった。
「じゃあ戦闘機組も地上の下見に同行っすね」
「双子、お前たちは別だ」
「げっ」
「二人とも、さっき伯労のダチから去年の五月の北海道、準決勝でのエース級の奴の視点カメラの映像を回してもらったんだ」
「当時のトップテン同士の空戦、何を見てどう動かしてるのか、今のお前たちなら少しは分かるようになってるはずだ」
「勘所を盗めってことですか?」
「そういうことよ。強豪校はそういう情報の蓄積で教育してるから強いの。私たちはそれが乏しかったから苦労したけど、これで少しは近道できるでしょ」
「おいっす」
「じゃあ僕たちは」
「校舎艦に俺と戻って訓練だ」
「お、おいっす……」
あからさまに気落ちする兄の光一を征二がやさしく宥めていた。




