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第十二話 いざ大舞台 B

 観戦会場に到着した一行。陸上競技場を半分にした規模で四つの巨大なモニターが鎮座しており、五島列島各所の上空で行われている競技の様子を一度に俯瞰できるようになっていた。


「もうすこしでうちの座席だな」


 和気藹々と一行は進む。


「よう岩橋!」


「隼人、本当にやりやがったんだな」


「おい、こんなに女子いるんなら俺たちにも紹介しろよ!」


 座席に向かう一行に通りすがりに出くわす、如何にもエース級と思わせる男子たちが次々に隼人に声を掛け、隼人もまた親しげに返事していくが当然長話はせずに手短だ。


「笹井さん久しぶり」


「今年は本当に団体戦だけ?」


 と、純にも声が掛けられていく。


「やっぱり顔見知り多いんですね」


「良くも悪くも戦闘機系の顔ぶれは中学の時からあんまり変わらないの」


 紗菜の問いに純がにこやかに答える。


「まあ隼人は察しの通り、人一倍交友関係広いからね」


 隼人は顔が広く、極端に敵視される事もなかったからか、困ったときの相談窓口になっていたり、トラブルの仲裁も行ったりと、とにかく他校の戦闘機乗りたちからも評判が良かった。


「鉄也なんて社交性は壊滅的だから・・・・・・」


 黙々と特に誰とも挨拶もせずすれ違うばかりの鉄也をちらりと見てため息をつく純。相手から名を呼ばれた際にようやく反応しているが、これでも改善されたのだという。


 全員が席に座ったところで、丁度競技が開始された。最初は雷撃機による魚雷の腕を競うものと、参加者が圧倒的に多い戦闘機の二対二の空中戦だった。


「夏の大会のメインは個人系なんだ。だからみんなしっかり見ていた方がいい」


 と隼人が言った直後に即座に離席しようと立ち上がったのは双子の兄の光一。


「双子、お前たちは空戦を見ておけ」


 席を外そうとした兄を呼び止め自分の横に座らせる鉄也。


「じ、ジュースを買いに行こうとしただけっすよ……」


 すると無言で鉄也は自分のカバンからペットボトルのお茶を取り出して光一に差し出す。その威圧に改めて飲まれる周囲。


「兄さん、声掛けは無理だから……」


 確かに周囲の選手たちの往来は男女半々というところで性別分かれての行動ばかり。しかし一定距離でいかめしい顔つきのスタッフが睨みを利かせているのが見える。同じ学校の生徒同士はともかく、学校違いでの異性への声掛けを抑止するためである。


「……、精進します」


 画面には魚雷を投下したTBFアヴェンジャーと、スピットファイアとYak-1の空中戦が映し出されていた。


「戦闘機の空中戦はやっぱり見栄えするよね」


 最初優位を取ったのはYak-1だったが、スピットファイアはその旋回性能を発揮して攻撃を回避し逆襲に転じようとしていた。


「でもさ、今ぐらいならうちの練習で見れるのよりレベル低いよね」


「そうだよね」


 特に応援するチームがある訳ではないので、皆はがやがやと気楽にだべりながら観戦していたのだが……。


「そっか、そういえば隊長たち、個人競技には出場しないんだよね?」


「団体競技で私たちの指導とか準備してたから予選に参加できなかったんだって……」


「岩橋くんも西沢くんも笹井さんも三人とも予選突破して上位狙える腕なのに……」


 初心者ばかりの雁ノ巣の面々への教育や組織の整備に忙殺されていたため、今年は隼人も鉄也も純も、この大会では個人競技への予選参加の段階から断念していたのだ。


「その分、みんなで頑張って、大会で結果出さなきゃ!」


 隼人たちの思い入れはしっかりと好ましい方向でメンバーに影響を与えていたのだ。


「あれ?」


 紗菜の通信端末に反応が。


「聖子さん、一緒に来てもらっていいですか?」


「は、はい!」


 その様子を見て隼人が微笑む。


「紗菜、ルウ姉から呼び出しか?」


「はい!」


 離席して長時間の談笑はさすがに注意されるが手短なら大丈夫と言われたので、紗菜は聖子を連れて指定された場所に向かう。


「おっし、よく来た!本当に大会出場だよ!」


 二ヵ月ぶりの再会に喜び合う二人。


「紹介します。私のパートナーになってくれた」


「く、草江、聖子です!」


「柏葉ルウ!よろしくね!」


 緊張気味の聖子の手を取ってにこやかに笑うルウ。


「いやぁー、このご時世に急降下の航法担当なんてものっすごいレアだもん」


「はい。紗菜さんにスカウトされちゃいました!」


「そっかそっか!良縁ってのは連鎖するもんだね」


 しみじみと頷くルウ。


「団体競技やってくれる学校はともかくさ、急降下爆撃チームなんて本当に少ないから、見つけたらそれだけで同士ってやつだもんな」


 ルウの話では団体競技で急降下爆撃を専門で行うメンバーがいる学校自体が消滅寸前であり、存在している鉄十字航空高校でさえ、ルウとテルの後釜も厳しいかもしれないというのだ。


「知っての通り、夏の大会でうちの学校は団体競技参加を見送りやがったから、私も個人競技しか参加できないからこそ、二人には頑張ってもらいたいんだよね」


 その言葉に息を呑む二人。雁ノ巣は二人だけでなくチーム自体が初参加も同然の状態で、高校最高峰の選手からこれほどの期待が寄せられてしまっては致し方ないことだが。


「大丈夫大丈夫。紗菜っちの腕なアタシが保証するし、急降下に耐えられる航法専属までついているなら絶対に見せ場作れるから!」


「わ、わかりました。期待に添えられるように頑張ります」


「わ、私も全力でサポートします!」


「よしよし。雁ノ巣の活躍、本当に楽しみにしてるからね」

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