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第十二話 いざ大舞台 A

 純白の雲柱が浮かぶ蒼穹の空と、全てを飲み干すかのような深き紺碧の海。その合間に点在する島々の南西側に、天空へ駆け上る真一文字の天板通路。そのさ中に数多居並ぶのは、我こそが日輪を掴まんとする雌雄を問わぬイカロスの子供たち。


(まわりみんな……)


(すごそうな人ばっかり……)


(全国大会クマ。そりゃそうクマよ……)


 大会初参加はともかく初心者ばかりの雁ノ巣の面々の多くは早くも場の雰囲気に呑まれ気味。


(紗菜さんは大丈夫ですか……?)


(はい。緊張はもちろんしてますけど)


 明らかに場慣れしているであろう隼人たち以外では唯一紗菜はいつもの様子で泰然としてた。馬上槍試合の大会や国体の常連だった紗菜にはこういった場の空気は慣れているという。


 程なく式が開始。運営の関係者たちの挨拶が終わり、ようやくバトンが選手側に回ってきた。


『宣誓!私たちは!スポーツマンシップに則り……』


(柏葉さんって本当に凄い人だったんだ……)


 刺さるように痛い真夏の日差しが降り注ぐ長大な滑走路に集ったイカロスたちを代表して、あの柏葉ルウが溌溂と選手宣誓を行っている。それを目の当たりにして、紗菜はまっすぐな眼差しで、自分を開眼させてくれた恩人を見つめていた。


 ここは長崎県は五島列島の福江島。はるか昔は遣唐使船の寄港地になるなど古くから交易と漁業で栄えたこの島は五島列島最大の面積を持つ火山島である。


 とはいえ本来小型機とはいえ縦横に離着陸可能な広大な空港が無いはずのこの島でどうやって航空戦競技の全国大会が開催できているのかといえば、大会を開催する際にあたって、適当な空港がない島嶼には協会が保有するメガフロートを波静かな湾内に設置して対応していた。


『選手退場』


 開会式終了と同時に式典に参加した各校の選手団は整然と退出していく。雁ノ巣の面々も用意されたバスに乗って式典会場から観戦会場のある別のメガフロートに移動していた。


「全員乗ったな?」


『おーー!!』


 和気藹々と楽しげな全員の返事が返ってくる。


「というわけでみんなひとまずお疲れ様!俺たちの競技は明後日からだから、今日は航空戦競技の大会の雰囲気をしっかり感じ取ってくれ!」


『おーー!!』


 隼人の話を聞き、遠足に参加した学童のような反応を示す大多数の面々。これが全国大会初参加だからというわけでもなく、雁ノ巣の面々にとって行った先で楽しむのが流儀だからだ。


「というわけで今日明日は個人競技の見学でいいけどもう一つ!そこらじゅうを遊び目当ての狼どもがうろついているから十分注意してくれ!」


 その話に笑いが漏れる車内。だが隼人は真面目な声色で続ける。


「みんな、冗談抜きで毎年問題になってるんだ!本当に困ったらあちこちに監視員さんたちがいるからすぐに伝えてくれ!」


 以前にも触れたが戦闘機乗りの男子は試合での撃墜数よりも口説き落とした女子の数を競い誇る風潮さえあった。


 そのため男女とも地元以外はユニフォームか制服などの各校を識別可能な衣類の着用が義務化され、特に学校が違う異性が連れで同行していると監視員から注意されることもしばしばだったのだ。


「今日は開会式と戦闘機は北東にすぐ移動だからまだ出くわしてないけど、特に夕方に宿に入ったあたりからは注意が必要よ」


 純がうんざりしたような口調でつぶやく。彼女はすでに慣れているとはいえ、その風潮は嫌っている様子だった。


「それにしても本当に凄いですよね航空戦競技って!このメガフロートもどんだけ……」 


 滑走路の脇から見える景色を眺めながら聖子は嬉々として呟く。彼女は競技のために用意されたメガフロートの巨大さに驚嘆していたのだ。


「……。今回はクロースパラレル式の2,000m滑走路の会場と、1,000m滑走路が二つ展開している」


 聖子の問いに淡々と答えたのは鉄也。


「今回は、戦闘機競技は五島列島の北東側で、爆撃系競技は開会式のところから南東側で行われるの。そして個別競技が終わってから、団体総合が全島を使うのよ」


 航空戦技の試合が行われる場所は、一般の航空機の運行との兼ね合いがあるため、かなり限られている。特に総合競技はかなりの空域を使わねばならないため、開催できる場所が極めて限られてしまう。


 そのため総合競技の会場は年三回の大会が、北海道、佐渡島周辺、隠岐の島周辺、五島列島、奄美大島周辺、そして小笠原諸島のいずれかで。初夏の北海道のみは固定で、他を持ち回りで開催するようになっていた。


「陸系は陸地が広い北海道希望で海系はどこでもいいっていうのが傾向なんだ」


 日本でも多用されているドイツ系とソ連系は航続距離の短さと搭載装備の都合で海洋での活動が不得意で、特に雷撃可能な機体はほとんど無い。そのため一番参加校が多く激戦になるのは初夏の北海道で、自然に初夏の北海道を制した学校がその年度で最強とみなされていた。


「今年の夏は五島で開催だから俺たちからは近いし、団体戦は特に参加校も少ないから地区予選無しで出場できるからな」


 今年の五島での大会では有力校のうちソ連系の哈府とドイツのフェオッケウルフ系の伯労は不参加。初夏の北海道が最多で平均三十校が参加するが、夏の大会は半数近くに減り、今回は十六校となっていた。


「前も言ったけど、今回の大会は一勝すれば次はいきなりベスト8で準々決勝進出。二勝すればベスト4」


「だからいきなり全国に名が轟くってことなのよ。ね、お兄ちゃん」


「そういうことだ」

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