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第十一話 炎は天に C

「さすがだな二人とも!」


「隼人くん!」


「大会まで一週間だけど、彗星に切り替えで大丈夫か?」


「うん!聖子さんと一緒なら大丈夫!」


「背面落ちパワーアップはむしろご褒美です!」


 二人の様子をみて笑顔を浮かべる隼人はうんうんと二度頷く。


「だったらよかったよ。彗星は最速級の急降下爆撃機だから、二人が使いこなせれば柏葉姉弟以上の日本最強のエースストライカーにだってなれる」


『ええっ?!』


「そ、そんなに煽てられましても……」


「う、うん……」


「煽てるつもりじゃなくて正直な感想なんだ。そもそも団体戦に対応できる急降下爆撃専門のメンバーは全国的に稀有なんだ。その上、彗星が使えて草江のナビと紗菜の腕は俺たちのとっておきの切り札になる」


 隼人のその言葉は世辞ではなく正直な感想だった。双発、四発の重爆撃機か戦闘爆撃機が各校のストライカーの大半を務める中で、二人乗りで団体戦にも対応可能な急降下爆撃機乗りは存在自体が貴重。その上で腕が良さが加わっている彼女たちは文字通り宝石よりも貴重な存在だと認識していたのだ。


「わかりました。隼人くん、だけじゃなくて、みんなの期待に沿えるように頑張ります!」


「私もです!目指すは天に輝く巨大彗星ですよ!!」


 聖子の宣言に居合わせた皆で高らかに大笑い。


「じゃあ、それをアシストするために、次は隊長の番だね」


 直後に格納庫の奥から見慣れない機体が姿を現した。


 競技に使われる飛行機に詳しくない者には、この学校の単発機では見慣れぬ四枚プロペラが特徴的という印象しか抱けないのだが、その機体を目にした隼人は文字通り飛び上がって大喜び。


「疾風、いけるんですか?!」


「彗星のエスコートができないんじゃ話にならないだろ?」


「ありがとうございます!!」


 彗星の速度は一式戦を凌駕しており、現状ではエスコートができないまま奇襲せねばならない事態も起こりかねない。整備課は雁ノ巣に機材があり対応可能な四式戦疾風と紫電改のレストアを合わせて行っていたが、今回の大会出場に間に合わせるために疾風の方に注力したのだ。


「こいつは甲乙どっちのタイプですか?」


「甲型で仕上げてるけど、乙型にも換装できるよ。さすがに試合中は無理だけど、対戦校が分かった時点で切り替えは大丈夫さ」


 甲型は胴体に12.7mm機関砲を2門装備し、乙型は対爆撃機用に胴体に20mm機関砲を2門装備したのが大きな違いである。つまり大型爆撃機の迎撃を主にするなら乙型に、それ以外を相手にするなら甲型に、という使い分けが現代なら可能だというのだ。


「そんなわけだから燃料・弾薬満タンでどれだけ出せるか試してきな!」


「恩に着ます!!」


 基本確認を終えて座席に座る隼人。


「十ヶ月で疾風に載れるなんて本当に幸せ者だなオレ」


 計器の配置も勝手知ったもの。故に何も手間取ること無く滑走路から隼人の新たな翼が蒼穹の空に舞い上がる。


「早い!!」


「さっすが!」


 今まで見てきたどの機体よりも早く真っ直ぐに頂きを駆け上る姿に驚きの声を漏らす紗菜と聖子。


「やっぱり疾風は最高だな!」


 当の隼人も上機嫌に大空を翔る。転校前の愛機がこの四式戦だったこともあり、久しぶりの感触に酔いしれていた。


「さあ、水平飛行でテストだ!」


 四式戦疾風は高度5000mで時速624~650kmが兵器としての現役時代のスペックだったが、当時の燃料や部品の事情による制約あってのものだった。だが現代においてはその制約が一切無いため、他の日本系機種同様、安定してそれ以上の速度を発揮できるようになっていた。そしてこの機体は・・・・・・。


「よしよしよし!上出来だよみんな!」


 地上からデータを受け取りながら見届ける整備科の面々が歓声を上げる。


「どんな具合なんですか?!」


「高度6000mで現在時速630km突破。40、50行った!!さあ、ここからだよ!」


 他校でも時速650kmは標準で、それをどれだけ上回れるかが整備の腕とも言われていた。


「こいつなら行ける!!」


 水平を維持しつつ大気を切り裂き速度を上げる隼人。そして四式戦はその疾風の名の如く・・・・・・。


「よっし、680km到達!」


 その数値にこれまでにない歓声が雁の巣の校舎で吹き上がる。残されていた三十年前の記録では時速670kmが最高記録だったのを、完全に塗り替えたからだ。


 着陸した疾風を皆が満面の笑顔で出迎える。


「やっぱり雁ノ巣の整備は完璧です!」


「言ってくれるじゃないかコイツ!!」


 隼人の首に腕を回して豪快にじゃれつく一木。皆はそれを姉と弟のじゃれあいのように眺めて笑っていたが、紗菜だけはその光景に羨ましげな顔をしてみているのを聖子は見逃さなかった。


「とにかく、これで全国大会に出る機体の準備は整ったって訳ね」


 純の言葉に隼人は大きく頷く。


「ああ。初めての全国大会、みんなで大暴れだ!!」


『おおーー!!』

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