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第十話 箒星が舞う前に E

『お疲れ様でしたーー!!』


 海水浴と一連の行楽・後片付けを終えて解散した一同。紗菜は聖子ともに帰宅の途に。その道中では早速話題に花が咲いていた。


「紗菜さんの水着、評判良かったですね。実際、すごく似合ってたと思います」


「ありがとうございます……」


 褒められて笑顔になる紗菜。


「ああいう可愛いの、どうしても一度は着てみたくて」


「紗菜さんは身体が綺麗なんですから、今度はもっと大胆なビキニ系なんかいいんじゃないですか?」


「ふぇっ!?」


「だって岩橋くん、あんなに紗菜さんのこと見て褒めてたじゃないですか。まだ夏休み始まったばかりなんですから、次は……」


「は、隼人くんは……」


 隼人の話題を出したとたんに狼狽してしまう紗菜。その様子をみてさらに聖子は畳みかける。


「岩橋くんはやっぱり人気あるんですよ。リーダーシップあって面倒見もいいですし」


「……」


「天文部の星河部長、手芸部のビーズちゃん、あとは整備課の最上さんもアプローチかけてるみたいですね。機甲戦部の多々良部長は無自覚に遠賀くんをキープしつつ未練あるみたいですし、まだ他にも狙ってる人はいるみたいですから」


 なお聖子に言わせると笹井は岩橋家の養子同然で育っているので、隼人や鉄也との距離がかえって測れないという。


「く、詳しいんですね……」


「いやぁ……当事者になるより眺めているのが好きなので」


 聖子が開陳する情報と得々と語る様子に苦笑いさえ浮かべてしまう紗菜。だが聖子はそれを純粋に褒められたと思って照れてさえいた。


 その聖子に言わせれば航空戦競技部の男子での一番人気は西沢で、クールで孤高な雰囲気もあって、学内でも女子の一番人気だという。そして支持層の結構な割合が、西沢が心を開いている数少ない相手である岩橋とつるんでいるのを眺めることだというのだ。


 しかし当の西沢は、航空戦技と愛機以外に特に関心が無く、かろうじて日常会話をする異性といえば、幼馴染で時折相方を務める笹井と岩橋妹、そして機甲戦部の三人、特に整備担当の御笠川ぐらい。


「岩橋くんは、航空やってる男は女に関心が有りすぎるか無さすぎるかの両極端だって言ってましたけど、西沢くんは典型的な後者みたいです」


 なお他校の戦闘機乗りは女癖が悪い者が多数いると言われており、遠征の度に現地の女性を口説きまくる者も多いという。そのためか隼人は他校の友人たちに雁ノ巣の面々を紹介しろと頻繁に依頼が来ているのも関わらず、あえて避けていたのだ。


「隼人くんはどうなのかな」


 思わず言葉が出てしまったのを聖子は見逃さなかった。


「そこですけど、確かに岩橋くんを狙う女子(ひと)は散見されますけど、当の岩橋くんはあの通り達観気味……。まあ、強いて言えば」


「強いて言えば?」


 すると聖子は思い切り気持ち良さそうな笑顔を浮かべて人差し指を眼前の相手に向けた。


「そりゃあ紗菜さんですよ」


「え?!ええっ??!!」


 顔を真っ赤にして呂律が回らなくなってしまう紗菜。


「状況証拠ですけど、岩橋くんは昔馴染み以外のメンバーに対しては部活とか同好会のくくりで誘ってるんですよ。活動補助金が倍増するからって参加しないかって」


 活動補助金の話をしなかった例外は忍術同好会で、ここだけはメンバー全員の正体を突き止めたから従わせたと言われていた。


「その岩橋くんが一個人を誘ったのは、今のところ紗菜さんだけなんです」


「……」


 最初に声を掛けられた時の事を思い出してしまう。


“俺と一緒に空、飛ばないか?”


「私は岩橋くんは狙い目だと思いますよ。何せすさまじい行動力と人脈を自分で作っちゃう上にあれだけ面倒見がいいんですよ。絶対将来大物確定です。それに実家も地場有力のしっかりしたところですし」


「実家……」


 その言葉に敏感に反応してしまう紗菜。


「あ、ごめんなさい!」


「い、いえ、聖子さんは悪くありません。私が過敏になりすぎているだけですから……」


 聖子は紗菜から、これまでの家庭の事情を打ち明けられた数少ない相手だった。


(だからこそ紗菜さんを助けてあげられるのは岩橋くんだけなんじゃないかと思うんだけど……)


 辰星の家の重み、何よりも厳し過ぎる彼女の母親と真っ向から対峙できるのは隼人ぐらいしかいないのではと、紗菜から話を聞かされてから聖子は考えていたし、それは実のところ二人の事情を具体的に知る者なら誰でも思うところだった。


「とにかく私は何があっても紗菜さんの味方です。部活でも恋でも精一杯支援しますから!」


「あ、ありがとうございます!」


 それから二人で近郊の大型ショッピングモールで散策と夕食をして帰宅。彼女が住むワンウームマンションは同じ学校の女子ばかり住んでいるが、今は夏休みの最中なのでほとんど全員が実家に帰省しているのですっかり静まり返っていた。


「そっか……、そうだよね……」


 転校してきてここに入ってから、朝はほとんど最初に出るので朝が静かな事には慣れているが、帰宅時間帯は時折管理人に注意されるほど賑やかなことが多いので、その時間帯でも静かな事に改めて寂しさを覚えてしまう紗菜だった。

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