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第八話 嵐を呼ぶ戦車戦 E

 草江聖子が加入したのはそんな最中の事だった。聖子ら新規加入メンバーの基礎訓練を行うのと平行して紗菜は隼人と戦車の訓練に精を出していた。


「それじゃあ試しに」


 純らが駆る白菊は低空から近づくと、地上を走るテケ目掛けて演習用の機銃を発砲した。


「三時方向から敵機、来ます!右方向に!」


「了解!」

 

 隼人の右肩をズンと蹴り込む紗菜。その速さと強さで方向の加減を迅速に察知した隼人は、右側の林道に車体を向わせる。同時に背後のこれまで進んでいた車道に、機銃が着弾した土煙が一直線に多数舞い上がった。


「凄い!完全回避です!」


 瞬時に白菊の視界から消えた事に驚く聖子たち。林道を抜けたところで再度襲撃を仕掛けるものの、今度は開けた原っぱでジグザグ走行を行いながら機銃を回避して逃げ切って見せた。


「あの二人、“操縦”の方は大丈夫みたいね」


 上空からの奇襲さえ的確に対応してみせる二人の連携は見事と言う外ないもの。トーチカからの攻撃回避や、車体を見事に隠蔽してからの急発進、枝を引き摺っての履帯の痕跡隠しなどもしっかりとこなし、機動戦についてはとても一週間程度の急造チームとは思えない技前になっていた。


「これなら岩橋くんと紗菜さん、機甲戦部にも立ち向かえますね!」


 着陸してからも興奮気味に語る聖子。だが、純の反応は芳しいものではなかった。


「そうね。確かに動きは隼人の目論見通り、辰星さんの抜擢で間違いなかったんだけど……」


「何か問題が?」


 いぶかしむ聖子に溜息をつく純。


「大きな想定外があったのよ……」


 二人が向かったのは格納庫の片隅。


「どうしよう……」


 残すところ後三日という段階だったが、重大な問題が判明していた。


「大丈夫。落ち着いて深呼吸」


 隼人の指示通りに大きく息を吸って吐く紗菜。


「ゆっくり狙って」


 砲塔をハンドルを使って旋回。上下の照準は肩掛けで行う。


「照準合わせました!」


「引き金をゆっくりと」


「はいっ!」


 引き金を引くと同時に発射される戦車砲。しかし砲弾は戦車型の的を大きく飛び越えてしまう。


「距離400。あれだけ外すか……」


 その光景を前に淡々と感想を口にする鉄也。


「じゃあ、距離200」


「いきます!」


 しかしこれも的の上や前後に逸れてしまっていた。


「命中は距離100を切ってからようやくなのよね」


「……」


 紗菜はこれまで戦車砲を扱った経験が無かったので、装填に手間取るばかりか、射撃も酷い有様。停止して慎重に狙ってもほとんど的に当てられなかったのだ。


「よし、もう一度きちんとやってみよう」


「!!」


(堂々と彼女さんと密着っすね)


(辰星先輩はともかく、お兄ちゃんはあれでまるで無自覚なのよね)


 紗菜のフォームや照準を密着して丁寧に修正していく隼人。男子に密着される経験に乏しい紗菜は、どぎまぎしてしまいながらも震えをなんとか抑えて狙いを付ける。


「発射!」


「はい!」


 砲撃の腕も確かな隼人が密着して修正したので今度はさすがに命中。


「今の感覚、忘れなければ……」


「う、うん……」


 しかしそれも紗菜が砲撃を外す原因になっているのではと、鈍感な隼人と鉄也以外は思っているが口には出さない。


「でもこの分じゃ本番に間に合わせるのは厳しいでしょうね。ところで今回は対戦車兵器使えるんでしょ?」


「ああ、そうなんだけどな……」


 今回は非公式の決闘という事と、テケがIII号戦車相手には余りに非力な為、車両に乗った、あるいは車体に直接触れた状態からであれば対戦車兵器の使用が許可されていた。


 しかし紗菜はM9バズーカやパンツァーファウストで練習してみたても、彼女には反動が大きすぎてとても的を狙えず、弾頭は明後日の方向に向ってばかりだったのだ。


「ど、どうしよう……」


 弓を使えば走る馬上からさえ容易に的を射抜ける紗菜だったが、流石に弓では戦車の撃破は無理だった。


「だ、大丈夫ですよ紗菜さん!爆弾を命中させられるんですから、大砲だってもっと練習すれば絶対に」


「時間が無い」


 聖子の励ましに冷徹に指摘を入れる鉄也。その言葉は誰もが分かっていた事であり誰も否定できないが、あえて口に出せなかった言葉でもあった。


 目を落として項垂れてしまう紗菜。そこに尚江が兄に提案を行った。


「攻撃の時だけお兄ちゃんが撃てばいいんじゃ?」


「それだとヒットエンドランができなくなる……」


「そっか……」


 操縦手である隼人が車体から身を乗り出して発砲した方が命中率が遥かに高いのは明白だった。


 しかし何らかの事態で外れた場合、対戦車兵器は発射時の爆風で確実に位置が暴露されてしまい、かつ射程の都合で距離が至近になるので即座に反撃を受けてしまうのだ。そして豆戦車では戦車砲にはとても耐えられないので、反撃を受けるのは即敗北を意味するのだ。


「これじゃあ密着しないかぎり当てられそうにもないわね」


「密着……。密着か!」


 純の呟きに何かを閃いた隼人。


「なあ紗菜、これ使えるか?」


 隼人が指し示したものは……。

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