第八話 嵐を呼ぶ戦車戦 C
隼人が毎日のように多々良たちの下にお願いに向っていたが、門前払いされているのは誰もが知るところだった。
「未生お姉ちゃん、拗ねてるね……」
尚江の事は妹ちゃんと昔から随分と可愛がってもらっていたが、協力の件についてはそれはそれ、これはこれだと言い、頑として拒絶していた。
「多々良っちは拗ねると面倒なのよね。昔っから……」
同じく付き合いが長い純さえも打つ手が無いようだった。
「隊長、対空戦車って必要なんっすか?こっちがこんなに頭下げてまで……」
見かねた光一の質問に隼人が答える。
「ああ。あるのと無いのは大違いだ」
現在プログラミング部が高射砲を扱ってくれているが、ルール上、車載型以外の対空火器は試合中の配置転換が許可されていないのだ。
「だけど対空車両は自由に動き回っていいんだ。対空陣地は位置が判明したらゴールの障害排除のために攻撃を受けやすいし、ゴールと違って機銃でも破壊判定を受けてしまうからな」
実際、ゴールを破壊する火力を持たないロケット弾は露払いとして対空陣地の排除に用いられる事が多く、さらに戦闘機の機銃でも撃破判定が出てしまうので、高射砲はともかく対空機銃は車両搭載が望ましいとされていた。
しかし対空車両の運用は専門の教育を受けた者か、機甲戦競技部の協力もしくは参加が必要なのだ。
「一体どうすればいいんでしょうか……」
「手はある」
嘆きの声を漏らす紗菜に即答する鉄也。その言葉に思わず全員が注目していた。
「辰星、顔を貸せ」
「は、はいっ!」
突然の鉄也の行動を一同は固唾を飲んで見守る事に。
ほどなく。機甲戦部の部室の戸が叩かれた。
「しつこい!協力はしないって!!」
その直後、機甲戦部の面々には聞きなれない少女の声が。
「どうかお願いします!私たち航空戦競技部に協力してください!!」
『?!』
驚いて未生が戸を開くと、そこには見事に九十度の角度で頭を下げる少女の姿があった。誰あろう紗菜だ。
「貴方、どういうつもり?」
「部長の多々良さんですね!お願いします!私たち航空戦競技部に協力してください!」
その後ろには隼人ではなく鉄也の姿が。
「……。アンタどういうつもり?」
未生の棘のある言葉は紗菜ではなく鉄也に向けられていた。
「隼人では無駄だからな」
だから鉄也は紗菜を連れて来たというのだ。
「……。転入生、顔を上げなさいよ」
「は、はい……」
顔を上げた紗菜を怪訝な顔をして嘗めるように見回す未生。
「ふーん」
「どうしてそんなに私に頭下げるの?」
「私たちに協力して欲しいんです!」
「どうして?隼人に言われたから?」
僅かに間をあけて答える紗菜。
「今年度中に大会に出て、勝ちたいんです!全国大会で戦うっていう大事な約束があるんです!」
決然と力強く言い放つ紗菜。隼人への協力も確かにあるが、今の彼女にはルウとの約束があったからだ。
「でも今の私たちだけじゃあとても難しいんです。でもみなさんが協力してくれたら道が拓けるんです!だから私も、多々良さんの、機甲戦のみなさんにお願いに来ました!」
力強くしっかりした光を湛えた瞳が多々良未生を見据えていた。
「フン!そこまで言うならわかったわ!」
未生の思わぬ発言に、紗菜だけでなく遠賀たちまで目を見開いて驚く。
「但し、アンタたちが私たちに勝ったらの話よ!」
「しょ、勝負ですか?!」
「そうよ!一対一の戦車戦で勝負よ!!」
左手を腰にあて、右手の人差し指を刃の切っ先のように紗菜に突きつけながら、未生は愉快そうに吼えた。
「承知した。お前たちは必ず(俺たちの活動に)参加してもらう」
淡々と言い放つ鉄也。
「何勝つつもりなの!私が勝ったら、部費の補填とこっちの試合に空戦部の正規部員全員に参加と、参加してる部活は強制応援してもらうから!」
「当然だ」
かくして話はまとまった。航空戦競技部は機甲戦競技部と戦車のみの一対一の決闘を行う事になったのだ。
「に、西沢くん、ほ、本当にこれでよかったの?!」
慌てる紗菜だが、鉄也はポーカーフェイスを全く崩さない。
「ああ。これでいい」
こうして部室に戻って隼人に報告すると、隼人は飛び上がって大喜び。
「ありがとうな、鉄也、紗菜!」
「で、でも隼人くん、勝負は戦車で決めるって……」
「大丈夫だ」
そこに鳴り響くエンジン音と履帯の軋む音。未生たちが逆に乗り込んできたのだ。
「話は聞いたでしょ!詳細を伝えに来たのよ!」
未生は果たし状を手に乗り込んできた。
「参加者はそっちの正規部員、それもうちの学校の生徒で、今現在のフルメンバー限定!使う車両は機甲戦のルール内ならどこから調達してきてもいいから!」
「そっちは?」
「もちろんこのIII号よ!」
「なるほど。だったら、あまったテケをこっちに寄こしてくれ」
『?!』
「隼人、アンタ本気で言ってるの?」
「ああ、もちろん。その代わり、対戦車携行兵器の使用を許可してくれ」
「上等よ!」




