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第八話 嵐を呼ぶ戦車戦 A

 聖子が正式に入部した日の放課後。彼女は喫茶同好会や園芸部の面々と共に機上作業練習機白菊に乗って大空を舞っていた。この機体は操縦員以外の乗員の任務である航法、通信、爆撃、射撃、写真撮影、観測などの訓練を行うための機体である。


「今回は航法を中心にするから」


『はーい』


 純が操縦し、聖子と園芸部の追加参加者のザクロと喫茶愛好会からルフナ、リゼが乗っていた。


「みんな授業で航法は習ってると思うけど、試合じゃGPSとか使えないから今日は本当に飛びながら現在地を算出してもらうから」


 実のところ四人とも、飛行機で遠出すること自体が楽しみな様子。しかし指導する純は彼女たちのそんな様子に慣れた反応。


「きちんとできないと、みんな迷子になるかもしれないんだから。あと誤差が許容範囲だったら隊長が購買のカフェラテおごるそうよ」


『了解!!』


 その場の勢いで純はカフェラテの事を約束したが、隼人ならそのぐらいなら事後承諾すると踏んでのことだった。


 ともあれこうして皆に気合が入ったところで機体は離陸。他の機体も離陸していくが、聖子の目は地上を向いていた。


(本当に乗ってるんだ……)


 滑走路の脇を走っている無限軌道の装甲車から顔を出す少女。ゴーグルを装着しているが、彼女こそ誰あろう紗菜だった。


「草江さん、辰星さんの事が気になるでしょうけど、あの二人は今度の日曜日……」


「ですよね」


 上昇していく白菊を見上げる紗菜。その機体に聖子が乗っているのは知っているためか、優しい目で見つめていた。


「よっし、俺たちもひとっ走りするぞ!」


「うん!!」


 滑走路の脇を二人乗りの豆戦車が走る。操縦は隼人、車長は紗菜。二人は今、航空機ではなく豆戦車、正確には九七式装甲車テケという装甲車両に乗っていたのだ。


(あと日曜日まで一週間を切ってる!それまでに調整し終えないと……)


 二人の乗るテケは柵を開けて学校の隣のオフロードコースに入っていった。


「紗菜、今日もコース二周してから射撃訓練するぞ!」


「うん……」


「大丈夫。俺たちなら日曜までに戦えるようになってる」


 不安を隠しきれない紗菜のブーツのつま先を叩いて声を掛ける隼人。彼女の両足は今、隼人の肩に乗っていた。


「ありがとう隼人くん」


「じゃあ、始めよう」


 紗菜が隼人の肩を両足で踏み込むと、隼人はあちこち枝葉が伸びて視界を妨げる林の間の道に向かってテケを前進させたのだった……。



 事の発端は三週間ほど前。つまりユーライアスとの練習試合から戻ってきてからに遡る。


 先にも触れたように、この時から航空戦競技部とその協力者たちは全国大会を目指してより活動を活発化させており、その意気込みは本気だと全校的にも知られるようになっていた。


『強豪相手にいい線いったんだって?やるじゃないか!』


『応援してるからがんばって!』


 直接参加しない生徒たちからも好意的に見られるようになっていた彼らだったが、その事を良く思わない者も当然存在していた。


「只今部員を、協力してくれる部活を探しています!ご協力お願いします!」


 ある日の放課後、雨天の為に飛行訓練が難しい時間を活用して呼びかけを行う紗菜だったのだが……。


「フンッ!!」


 紗菜の呼びかけとビラ配りに、思い切り至近距離まで近づいてから露骨に睨みつけて立ち去る女子がいた。


(い、今のは……)


 露骨な悪意を向けられて思わず怯んでしまう紗菜。


「悪い悪い。アイツ今、虫の居所が悪くてな……」


 そこへその様子を見た男子が慌てて駆け寄って侘びを入れる。すると先ほどの女子がその男子を一喝。彼は慌てて後を追いかけていった。


「何が空戦部よ!いまいましい!」


 わざと聞こえるような声で吐き捨てる女子。紗菜が気になって様子を見ていると、先ほど詫びてくれた男子以外に三人集まって、校庭の向こうに去っていく姿が見えた。


「い、今の人たちは……」


「辰星、気にするな」


「ふぁわぁい!」


 不意打ちで声を掛けられてびっくりして声を挙げてしまう紗菜。様子を偶然見ていた鉄也が声を掛けてくれたのだ。


「ご、ごめんなさい西沢さん!驚いちゃって……」


「構わん」


 一切ポーカーフェイスを崩さない鉄也。色々と慣れているらしい。


「あの女は面倒だがこちらの活動の妨害はしない。気にせず続けていい」


「は、はい……」


 そうは言っても動揺が続く紗菜。


 確かに不意に敵意を向けられた事に驚いていたが、実のところそれ以上にあの気難しくて話しかけるタイミングにも“身内”以外には図りかねる西沢鉄也から声を掛けられてしまったことの方に戸惑っていたのだ。


 一旦部室に引き上げた紗菜はその事を隼人たちに報告したのだが、隼人も純もしばらく堪えきれずに笑い続けていた。


「あ、あの……」


「ごめんごめん。鉄也は紗菜を“身内”認定していたって事だよ」


 西沢鉄也は寡黙な男で、自分から他者に口を開く事は滅多になかった。そんな彼が自発的に口を開く相手は身内ぐらいのもの。それでも必要最低限に限られているが、いずれにせよ鉄也の方から自発的に声を掛けたという事は、紗菜は鉄也にとって身内として扱われているというのだ。


「ところであの人たちは……」


 それはさておいてと、自分に敵意を向けてきた相手が気になっていた紗菜。


「ああ、あいつらはな……」

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