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第七話 片翼を求めて D

 ほどなく草江を加えた一行は、ほとんど並ばなくて済むアーケードゲームのコーナーに来ていた。ここで草江は爆撃機の機銃手になって敵機から自機を守るというガンシューティングの腕前を披露してくれた。


 座席は敵の攻撃を回避するために上下左右に思いのほか激しく動くが、草江はその動きに対応しながら接近する敵機を次々と撃墜していく。終わったところで出たスコアは、この遊園地でも歴代3位で、全国でも上位に食い込んでいた。


「凄いですね」


「ゾンビを撃つゲームも好きですけど、こっちの方が得意なんです!」


 航空戦競技部の面々には自分の趣味を開陳しても引かれないと知った草江は得意分野を楽しそうに見せてくれた。


 ゲームコーナーを満喫した一行は昼食のためにフードコートに向う。


「少し早めに来たつもりだけど」


「もう混んでますね……」


 フードコートはすでに大勢の家族連れでごった返していたのだ。


「だったら少し離れた展望レストランに行きましょう。この時間帯ならそんなに混んでないはずですから」


 草江の案内でそこに向うと、まだ客はまばらな様子。人数が多いので部活ごとに申告して入店すると、ほどなく他の客が大勢並び始めた。


「草江さんすごい!」


「読み通りだな」


「えへへ……。入り浸ってますから」


 照れつつも推薦するメニューを皆に伝える草江。このレストランのオススメは金印ホットサンドで、大食いの人用には防塁ホットサンドという食パン一斤を縦切りにした特大サイズもあるという。


「じゃあ女子は金印セットで男子は防塁セットに追加で牛肉コロッケ!」


 こうして注文したメニューを待つ間、草江は自分がジェットコースターが大好きという話を語ってくれた。


「実は二日に一度は放課後に着替えてから乗りに行ってるんです……」


 そういって草江は皆にこの遊園地の年間パスポートを見せてくれた。


「制服姿で入るのは厳禁ですけど、親戚がやってる喫茶店で着替えさせてもらって、それからここに来てるんです」


 草江は学校の傍の遠縁の親戚が経営している喫茶店で着替えてから遊園地に出向いているという。


「お陰でここの人たちにもすっかり顔を覚えてもらっちゃって……」


 顔も素性も覚えられているが、ジェットコースターに入り浸っているだけなので特に学校に通報される事もなく、むしろ学校の教員が見回りに来る時には教えてもらって逃がしてもらってさえいるという。


「私ね、一応学級委員長だけど……」


 純が呆れ顔で語ると、草江は完全にその事を失念していたようで、飛び上がってうろたえてしまう。


「ま、黙認だ黙認」


「はいはい。聞かなかった事にしておくから」


 それを聞いて目を輝かせて感謝する草江。その様子を見た紗菜は思わず吹き出してしまう。


「土日祝で余裕があるときは遠征してるんです。九州は全部制覇したんで、めざせ全国制覇!これからはもっと遠くに行きたいなって……」


「そうだったんですね……」


 そういって通信端末に保存していた今まで巡ってきたジェットコースターの写真を自慢げに見せる草江。純は呆れ気味、鉄也はいつもの通り無表情のままだが、他人が没頭している事の話を聞くのが大好きな隼人と、自分が全く知らない世界の話に興味津々の紗菜は頷いて聞いていた。


「お待たせしました」


 ようやく本命のホットサンドが各人の前に姿を現す。通常のサイズの金印サンドは四枚切り食パンを正方形で焼いたものを斜めに切ったもの。特大サイズの防塁サンドは厚みこそ金印サンドと同じだが、長さが倍になっており、横一文字に分けられて出てきた。


「具材は鳥肉とチーズとトマトとザワークラウトですけど、パンの小麦も合わせて全部地元のなんですよ!」


 鶏肉は博多地鶏でチーズは糸島産。トマトもザワークラウトの元であるキャベツもパンの小麦も福岡県内のものだという。


 一同はほぼ同時に口に運ぶが、全員がその味を絶賛する。


「ここにこんなメニューがあったなんて……」


「薬味のゆず胡椒が効いてるな」


 醤油ベースのソースにはゆず胡椒も加えられていた。


『ごちそうさまでした!』


 各々がこの店の料理絶賛。その様子を見て紹介した草江も安堵の笑顔を見せる。


「美味しい穴場、教えてくれてありがとう」


「どういたしまして!」


 昼食を終えて一行はレストランを出る。その傍でソフトクリームが売られているのを見つけた尚江は皆を誘って食べる事に。


 隼人と尚江はあまおうイチゴ、鉄也が抹茶、純がバナナ、紗菜がバニラ、壇兄弟はチョコ、そして草江は抹茶とバニラのミックス。


 木陰で揃って食べていると、ふいに紗菜耳にジェットコースターの発する走行音と歓声が飛び込んできた。


(結構高いんだ……)


 見てみるとかなりの高さから、ほとんど垂直の角度で降下していることに改めて気が付く。


(もしかして!)


 その時、紗菜の脳内回路が接続された。


「草江さん、ジェットコースター大好きでしたよね?」


「はい!」


「高くて早いのは?」


「大好きです!」


「背面落ちは?」


「大好物です!!」


 双方、ほとんど息継ぎなしでの問答。様子の変化に気が付いた一同は、双方を注視した。


「あの……」


「?」


 大きく深呼吸をした紗菜は、草江の両目をしっかりと見据えて、吼えるように訴えた。


「わ、私と一緒に、そ、空、飛んでみませんか?!」


『??!!』


 その言葉に驚く一同。


「たっ辰星さん?!それって……」


 衝撃を受けて混乱する草江に、紗菜の意図を汲んだ隼人が彼女に語る。


「ああ!急降下爆撃は高度4000メートルから500メートルまで時速500キロで急降下!そのうえ直後に急上昇だ!」


「お願いします!!」


 紗菜の手を取って即答する草江。国内のジェットコースターの最高高度は100メートルで時速は200キロに満たないのだが、急降下爆撃なら速度は二倍以上で落差は三十五倍以上という正に桁違いのもの。ジャンキーと化していた草江が飛びつかない理由など何も無かったのだ。

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