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第七話 片翼を求めて C

 この日は午後からさらに雨脚が強くなったため訓練飛行は断念し、空戦部の部員たちはシミュレーターでの訓練と座学を。協力者たちの大半は各々の団体の活動を行っていた。


「お。明日の予報は晴れか……」


 隼人は複数の天気予報を確認したが、明日の土曜日は久しぶりに晴れる見込みのようだ。


「じゃあ、明日は久しぶりに飛行訓練ですね」


 ようやく飛べると笑顔を見せる紗菜。だが隼人は……。


「よっし!明日はみんなで遊びに行こう!」


『?!』


 仰天する紗菜と壇兄弟。一方で妹の尚江と身内同然の鉄也と純はそう来るだろうなと見越していたのか特に驚く様子は無い。


「隊長、マジですか!?」


「大会出場って八月ですよね!?」


 壇兄弟の問いに隼人は即答した。


「ああ。明日は飛ぶこと以外で気晴らしだ!」


『おおー!!』


(は、隼人くんらしいな……)


 日々の訓練は大事だが、毎日毎日根を詰めて続けてもそこまで成果が上がるものでは無いからと、隼人はこの週の土曜日は気晴らしを優先するというのだ。


「それで明日はどこに行くのお兄ちゃん?」


「近所で悪いけど、そこの海中(うみなか)だ!」


『海中?!』


 翌日。朝から航空戦競技部の正規部員全員と、乗っかってきた天文部と手芸部の面々は雁の巣高校から海水淡水化センターを挟んだ隣、徒歩さえ気軽に出向ける程近い、志賀島と本土を結ぶ“海の中道”にあるレジャー施設群に来ていた。


 この一帯には海水浴場やキャンプ場やヨットハーバーだけで無く、九州最大規模の水族館や遊園地、夏限定の屋外プールなどの大規模なレジャー施設が揃っていた。特に近年は遊園地のジェットコースター等の大型遊具が充実していたので休日は大勢の人々で賑わっているのだ。


 隼人たちが遊園地に入園したのは開園からおよそ一時間後。すでに園内は久しぶりの青空に誘われた大勢の人々で賑わっていた。


「そういえば私、ここに来るのは初めて……」


 紗菜も飛行機から頻繁に眼下に見ていたが、実際に来たのは初めてだった。


「辰星先輩は遊園地は?」


「小さい時に緑遊園地に一度だけ……」


 熊本出身の彼女は、父が健在の時に一度だけ家族揃って荒尾の遊園地に遊びに行ったことがあった。だがそれが最初で最後の家族で出向いた遊園地の記憶になってしまっていた。


「あの時私は小さかったから、ジェットコースターには乗れなかったけど……」


 ジェットコースターには長い長い行列が出来ており、最後尾は60分待ちの表記が出ていた。


「さすがにあんなに並んでたら乗る気しないわね」


 と、純は呟くが、戦闘機乗りにとってはジェットコースターを遙かに上回る苛烈な運動は日常的に行っているので、特に乗るつもりは無かった。


「あれ?」


「どうしたんですか?」


 怪訝な顔をして行列の前の方を見る紗菜。


「あそこに同じクラスの草江さんがいる」


「あら、本当ね」


 草江は野球キャップを被りポロシャツにふとももがほとんど隠れるくらいの長さの半ズボンという小学生の男子のような服装をしていた。


 草江聖子は紗菜の二つ前に座るかなり物静かな少女。特に友人を作っているわけでもないらしく、一人で昼食を摂っている姿も良く見ていたが、紗菜とはこれまで接点らしい接点がなかったので、特に声を掛けることもなかった。


「それにしても……」


 草江の様子を静かに見守る同じクラスの面々。


「笹井さん、隼人くん、私、あんな楽しそうな顔している草江さん、初めて見た」


「ああ。言われてみればそうだよな」


 彼女が並んでいたのは数年前に移設された進行方向に背を向けて観覧車以上の高さから急降下するジェットコースター。人気があるので長蛇の列だが、かなり前の方にいた。


「ああ~~。楽しみ楽しみですよぉ~♪」


 ほどなく順番が来たので満面の笑顔を浮かべて乗り込む草江。紗菜は気になってその様子を見ていたが、彼女は学校では見せた事がないような、弾ける笑顔で絶叫しながらジェットコースターを満喫していた。


「ひゃっほう!やっぱりジェットコースターは最高だぁぃ!」


 上機嫌で足取りも軽く降りてきた草江。そんな彼女に紗菜の方から声を掛けてみた。


「あ、あの……草江さん?」


「うひゃぁ!」


 思わぬ場所で紗菜に声を掛けられて仰天してしまう草江。さらに他のクラスメイトの姿を見てしまい動揺してしまう。


「た、辰星さん?!笹井さんに岩橋くんも……」


「草江さんが楽しんで笑ってるところ、初めて見ました」


「あうあうあ//////」


 あまり知人に見られたくなかったのか、思い切り赤面して言葉に詰まってしまう草江。


「気にしないで。別に茶化すつもりはないのよ」


 純が笑顔で語りかけるとようやく一呼吸して落ち着いてくれた。


「ジェットコースター、好きなんですか?」


「はいっ!めっちゃ大好きです!ぶっちゃけ雁の巣を選んだのは、ここの近所だったからですから!」


 紗菜の問いに、これまでで一番の笑顔で元気一杯に草江は紗菜に返事したのだった。

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