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第六話 赤き彗星の開眼! E

 今度は紗菜が操縦し、ルウが後部座席に。


「行きます!」


「おう!九九式艦上爆撃機、発進!Go!!」


 離陸から上昇、そして水平飛行に至るが、ルウは特に口出しせずに紗菜の操縦を見守る。


「目標を確認しました!今から降下を開始します!ルウさん、高度の読み上げをお願いします!」


「任せな!1000を切るまでは500刻みでいくけど」


「お願いします!」


 先ほどルウが行ってみせた通りに緩降下を開始する紗菜。先ほどとは変わっている風力などは言われずとも計器を確認した上で目標をしっかり定めており、特定の高度に達すると照準器のカバーを開いてレンズを開放。その先を注視して目標をしっかり固定。そして急降下を開始した。


「1500!1000!……9!……8!……7!」


 報告を聞きながら降下速度を一定に保ち、その瞬間を待つ紗菜。そして……。


「……6!……5!」


「いきます!」


 高度500を切ったところで爆弾を投下。時間差的に投下高度は450というところだろうか。投下を終えると紗菜は海面にそのまま衝突するのを避けるべく、機体を一気に水平に戻すために強引に引き起こした。


『!!』


 戦乙女たちに再び重力の魔人の手が覆いかぶされた。しかしルウは言わずもがな紗菜もこれしきで参る事なくその手を振り切って機体を水平に。そして、ルウは後方の光景を紗菜に伝えた。


「命中確認!よくやった紗菜!」


 爆弾は目標の中心点をほぼ捕らえていた。国内最高峰の名手であるルウには当然及んでいなかったが、初めての投弾としては破格の命中精度であり、同年代の専門選手としても十分通用する腕前であった。


「辰星先輩すごい!」


「大したものね」


 ドローンからの空撮映像を見て飛び上がって喜ぶ尚江。心底感心している純。


「隼人くんの言ってた通り、あの子は本物だね」


 テルもうんうんと頷きながら太鼓判を押す。


「ああ。見込んでいた通りだ」


 隼人も笑顔を浮かべる。


 無事に二人が帰還すると、全員からの拍手喝采を浴びる紗菜。


「ど、どうもありがとうございます……」


 照れながら頭をぺこりと下げる紗菜。


「さあ、今度は実戦形式だ!団体総合は妨害を潜って命中させるんだから、練習でも当然盛り込まなきゃ話にならないからね!」


 しかし喜びもつかの間。ルウはすぐに次の試練を与えると告げた。


「早速妨害するのか?」


「もちろんさ!」


 こうして隼人が妨害する中で急降下爆撃を敢行する事に。


 今度は先に隼人が操るT-6が離陸。訓練用に模擬機銃を搭載しているので、九九式艦爆に命中判定が出れば白煙を噴かせる事ができる。そしてその場合は当然攻撃失敗となるのだ。


 隼人が飛び上がったのを確認して離陸する紗菜の九九式艦爆。


「当然分かってるだろうけど、大会本番は隼人や鉄也ぐらいの腕のヤツはどのチームにも居るし、戦闘機はどんなのでもテキサンなんかとは比べ物にならないぐらいぐらい性能がいい!」


「はい!」


 紗菜は隼人たち戦闘機乗りの練習風景やユーライアスとの練習試合を即座に思い出す。


「だけどそんな連中を出し抜いて爆弾ぶち込んでやるのは、もんのすご~~く気持ち良い!!」


「紗菜!お前ならわかってくれる!絶対に!!アタイが保障してやる!!」


「おい隼人!お前の彼女が乗ってるからって手なんか抜くんじゃねえぞ!」


「冗談!ルウ姉相手に手抜きなんて誰が!!」


『!!』


 厚手の雲の上から同時に気配を感じた二人。


「来るぞ!」


「はいっ!」


 250kg爆弾を搭載しているので機動性は落ちているが、隼人の左後方からの一撃離脱攻撃を何とか回避。しかし回避運動の結果、高度が落ちてしまう。


「また来るぞ!」


「はいっ!」


 カタログ上のデータでは九九式艦爆は練習機に過ぎないT-6を最高速度や運動性でも凌駕していたが、現在250kg爆弾を搭載しているのでほぼ互角というところであろうか。


「後部機銃は撃ってやるから、他は任せた!」


「ありがとうございます!」


 紗菜は大きく目標の周囲を緩降下しながら周回し、速度を稼ぎながらも降下を続ける。隼人のT-6は、その動きを読みつつ攻撃を仕掛けてきた。


「悪いけど!」


 機銃の射線上に紗菜を捕らえた隼人。しかしすぐに攻撃を中止し回避運動に入ってしまう。


「オラオラオラァ!!」


 その攻撃を断念させたのはルウの後部の旋回機銃。基本的に操縦がメインの彼女だが、旋回機銃の操作も狙いも一級品で、隼人のアタックを阻止してしまったのだ。


「今だ!!」


 機を見た紗菜は急降下を開始。


「しまった!」


 隼人も後を追うが、いくらT-6が頑強であっても急降下の専門機の速度には追いつけず、食いついて射撃は出来ない。


「8!7!6!5!」


「投下!!」


 標的に放たれた爆弾はもはや阻止する術はない。機体を引き起こしながら、T-6からの追撃に備えて横旋回も行う無茶ぶりに、そこまで頑丈でないとされる九九式艦爆の機体が悲鳴をあげていた。


「ハハハハッ!!」


 懸命の紗菜と大笑いするルウ。そして離脱した二人はその結果を目の当たりに。


「よっしゃ命中!」


「やった!」


 彼女の放った一撃は的の中央を正確に射抜いていた。


「完全にしてやられたな……」


 ルウの指示でウイニングランの蛇行飛行の後で悠々と着陸。下では先に着陸していた隼人たちが拍手と歓声で出迎えた。


「やったな紗菜!」


「辰星先輩、本当に凄かったです!!」


「辰星さんおめでとう!」


「期待の新星、雁の巣に誕生だね」


「みなさんありがとうございます!」


 居合わせた全員に深々と一礼する紗菜。


「その感覚、絶対に忘れんな!」


「大丈夫です!」


 ルウはその返事を聞いて何度も頷く。


「よっし。これで紗菜は大丈夫。だけど、だからこそ大事な事がある」


「大事な事、ですか?」


 ルウは大きく頷いた。


「アタイにはテルが居る。これ以上無い頼れる相棒(バディ)がね」


「そう。団体戦で急降下爆撃をするなら辰星さんにも必要になるよ。本気でルウ姉さんと渡り合うなら絶対に」


 柏葉姉弟は紗菜には相棒が絶対に必要だと、雁の巣の面々に説いたのだ。


「相棒……」


 馬上槍試合を長年続けていた紗菜にとって相棒とは我が身を委ねる愛馬のことだった。航空戦競技においては乗機がそうだと疑問も抱いていなかったが、団体戦競技の急降下爆撃機乗りにとっては、背中を任せる人間の相棒が必要になるというのだ。


「わかりました……」


 次に自分に何が必要なのかを知った紗菜。そんな彼女の左肩に手を添える隼人。


「じゃあ次は紗菜の相棒探しだな」


「そうね。全国大会で勝つためには絶対に欠かせない訳だし」


「頑張って探しましょう!」


 こうして雁の巣の面々は、紗菜の相棒を探す事を決定した。紗菜一人では雁の巣のアタッカーは務まらないのだ。


「いいなお前ら、今年中に絶対に全国大会に出て来い!そしてアタイたちと勝負するんだ!」


「おう!夏の大会で借りを返す!!」


 威勢よく返事する隼人。


「紗菜!期待してるからな!」


「はい!」


 ルウの手を取り涙ぐんでしまう紗菜。そんな彼女を優しく手で撫でるルウ。


 こうして梅雨の晴れ間の一日だけ、紗菜はルウから教えを受けた。だがこれが彼女の開眼の日であり、互いに終生に及ぶライバルであり親友となる二人の出会いの日ともなったのだ。

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