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第六話 赤き彗星の開眼! D

 揃った四人は地下鉄を乗り継ぎ、福岡の西隣の糸島に向かう。


 そこはかつて水上機メインの玄界六三四航空学校があった場所。学校こそ雁の巣と合併して機材も移管されていたが、民間用に水上機をはじめ小型飛行機用の滑走路も整備されていた。


「そんなわけで玄界は借り切ったし、飛行機も持ってきてもらってるから」


 先ほども触れたが、純と尚江が使用する飛行機を運んでくれているのだ。


「知ってると思うけど、爆撃系ってみんな団体総合嫌がるんだよ。あんなに楽しいのに」


 柏葉姉弟コンビ、特に姉のルウは個人競技でも無類の活躍を見せていた。そちらに専念すればとの声も多数だったが、彼女はそれを一蹴していた。


「だって個人競技は離陸したら少し飛んで的に当てて帰って来るだけだぞ。アタイにはつまんないもん。それより色んな連中と一緒に長い距離飛んで、たくさんの妨害を突っ切ってからゴール吹っ飛ばす方が絶対楽しいじゃん!」


「姉さんは的当てよりハンティングの方が好きなんだ」


 それは現在の爆撃系選手の主流からかけ離れた、いや正反対の考え方だった。


 ともあれ駅からバスに乗り換えて飛行場に。青い海が見渡せ、潮風が心地よい立地である。


「ルウ姉さん、テル、ご無沙汰してます」


「お久しぶりです!」


 飛行場で出迎えるのは純と尚江。今回の訓練で使う機体を運んできたのだ。


「笠井も岩橋妹も元気そうじゃん。結構結構」


「純ちゃんも尚江ちゃんも相変わらずだね」


 そういって笑顔になる四人。空戦部関係だからと誰も彼もが仲良しばかりではないというが、隼人の知り合いは寡黙で無愛想な者は居ても、露骨に仲が悪い者はほとんどいないという。


「九九艦爆とテキサンが訓練用かな」


「ああ。うちはシュトゥーカ持ってないからね」


 ルウとテルはJu87シュトゥーカを愛機にして活躍していたが、残念ながらこの機体を雁の巣は持っていなかった。しかしルウは気にする様子は無い。


「むかーしの偉いお坊さんは筆を選ばなかったって聞くけどアタイは乗る子を選ばない!まあ爆弾積めなきゃ嫌だけど」


 そう言うと早速準備を整えてから操縦席に乗り込むルウ。後部座席には紗菜が乗った。


「よしよし、さっすが笹井!アタシに合わせて調整してくれてたね」


 先ほど飛んできた機体なので何時でも飛び立てる状態になっていた九九式艦上爆撃機は、水鳥が飛び立つかのように颯爽と大空に舞いあがった。九九式艦爆は小型空母からでも発着可能な航空機なので、この小さな飛行場からでも余裕を持って飛びたてるのだ。


「それじゃあ早速急降下爆撃をキミに体験してもらうよ!」


「はい!よろしくお願いします!!」


 機体を高度六千に上昇させると、水平飛行に移る。


「まずは基本!水平飛行から緩降下開始!」


「はい!」


 目標の洋上ブイ目掛けて、まずは速度を維持しながら緩やかな角度で降下を開始する。


「大まかな狙いはこの時につけておくんだよ!」


「はい!」


「急降下の角度は色々言われているけど、アタイは頑丈な子で真っ直ぐ下りるのが一番かな。でもこの子は軽い分そこまで頑丈じゃないから、ちょっと緩める!」


 急降下爆撃の降下角度は国と機体によって異なっていた。旧日本軍は浅い部類で50度から60度の間で、米軍が70度から75度。独軍がそれ以上から垂直の90度とも。


 この九九式艦上爆撃機は大戦序盤で歴史的な活躍を見せた機体だが、機体が軽い反面、機体の強度が不足気味で、あまり深い角度での急降下ができなかったとも言われている。


 現代の航空戦競技においては、機体強度は安全性確保のために史実以上の補強が認められているので、現在彼女たちが使っている機体もカタログ上は80度までの急降下に耐える事ができたのだが・・・・・・。


「!!」


 航空機の場合は特に苛烈な酷使は破損に繋がり、その結果は重大事故に繋がるので戒められていたが、ルウはその限界降下角度を超過するかどうかの角度で降下を行ったのだ。


「高度1000からは100刻みで報告!」


「っはひ!」


 瞬く間に高度が下がっていく。すると当然のように操縦席のルウの上左右の隙間から見える海面がぐんぐん迫ってくるのが目に飛び込んで来る。しかし紗菜は恐れずに高度を読み上げ続ける。


「1500!1000!……9!……8!……7!」


「いいぞ!」


「……6!……5!」


「いよしっ!」


 高度500を聞くと僅かに降下してからルウは投下ボタンを押す。


「踏ん張れぇ!」


 投下して機体が僅かに浮き上がると、そのまま角度を上げ、200ほど下りたところで水平飛行に機体を戻す。


『!!!』


 二人の乙女に重力の魔神が容赦なくその手を覆い被せた。頭を押さえつけられ、血流が足に留まり登り上がらなくなって視界が暗くなりかける。ブラックアウトの前兆だ。


「ぬんっ!!」


 しかしルウは魔神の手をものともせずに機体を水平に引き上げ、海原を全速力で滑走。


「いいか紗菜っ!これがぁ!急降下ぁ!爆撃だぁっ!!」


 ルウの投弾は正しく神業。標的のほぼど真ん中に見事に突き刺さっていた。


「じゃあ、やってみな!」


「はい!!」

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