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第六話 赤き彗星の開眼! C

 かくして迎えた土曜日の朝八時。指導員は新幹線で来るというので隼人と紗菜は博多駅で二人を待つことに。自分たちの飛行機で雁の巣に直接乗り付けて来ないのは、表沙汰になった時が面倒な事になるからだという。


「早めに呼んでごめんな。向こうから、まずは教える相手の顔を直接見ておきたいっていわれたからだけど……」


「うん、大丈夫だよ」


 この日は学校が休みということで隼人も紗菜も私服姿。鉄也は壇兄弟の指導を行っているので出迎えには来れず、純と尚江は機体を学校外に移動させるため、この二人も来なかったので、出迎えは二人きり。


 博多駅の新幹線口はここを基点に東や南へ向う乗客でごった返していたので、少し避けて待っていたのだが……。


「おい、マジか……」


「どうしたの隼人くん?」


 隼人の通信端末に反応があったので覗いたところ、隼人が呻くように呟いた。


「二人揃って寝坊したから一時間遅れるって今頃連絡来た……」


 苦笑が漏れてしまう紗菜。


「いくらなんでも一時間立ちっぱなしはあんまりだから……、どこか店に入ろう」


「う、うん」


 こうして二人は駅ビル内のハンバーガーショップに入ることに。


「ごめんな。オレちょっと小腹が空いちゃって。オレが奢るから何でもいいよ」


 そういって隼人は好物の白身魚のフライのバーガーとフライドポテトのセットを注文。飲み物はジンジャーエールをチョイス。


「じゃ、じゃあ私はミルクセーキで」


 紗菜はとりあえずバニラ味のミルクセーキ、その一番小さなサイズを注文した。


「あの二人、時間は守るクチなんだけどなぁ……」


 ボヤきながらフライドポテトをついばむ隼人。二人は通路が見えるガラスの壁際に合席だった。


(そういえば私、男の子と二人で食事するの初めてだ……)


 その事に気が付いた紗菜は、周囲の目を気にしてキョロキョロと落ち着き無く周囲を見渡す。周りは土遅い朝食を摂るスーツ姿の男性やキャリーバッグを脇に置いた国内外かあらの観光客たち。そして私服姿でガールズトークに興じている同年代の女子グループやデート中と思しき男女のペアなどでほとんど埋まっていた。


(も、もしかして、わ、わたしたちも同じように見られて……)


 男子と二人で向かい合って食事していれば、当然傍目からはデートしていると判断されるであろう。その事に今更気が付いた紗菜は、思わず目をぐるぐるとさせながらミルクセーキをくぴくぴ飲むなど挙動不審になりかけていた。


「ん?紗菜、大丈夫か?気分でも悪いのか?」


「う、うん!だいじょうぶだいじょうぶ」


 フライドポテトを平らげた隼人が尋ねるが、紗菜は大丈夫だと即答して、ミルクセーキを一口飲み込む。


「そっか、だったらいいけど」


 続けてバーガーを一口かじる隼人。紗菜は再びガラスの向こうの通路、往来が激しく誰も立ち止まっていない様子を見ていたが……。


「?!」


 ふと目が合ったのは黄緑色のパーカーを被った幼い容貌の少女。少女は立ち止まって紗菜を見据え、すぐに僅か隣に目を移すと笑顔を浮かべた。


「?」


 少女は自身の手を引いていた背が高い青年に声を掛けると、青年は通信端末を操作し始めた。


「ん?着信?」 


 バーガーを食べ終えた隼人の通信端末がすぐに反応。送られた文面を見て隼人は呆れた顔を浮かべていた。


「ごめん紗菜。寝坊したってのは実はフェイクで、もうこの辺に来てるんだって……」


 すると紗菜は外を指差す。


「も、もしかして、あの人たち?」


 それは先ほど目が合ったパーカーを着た少女と背の高い青年。隼人もそれを確認し大きく溜息をついた。


「・・・・・・ああ。あの二人だ。悪いけどすぐ行こう」


「う、うん」


 隼人はジンジャーエールのキャップを外して一気飲み。紗菜は残りを音を立てずに飲み干すと、足早に店を出た。


「ぃょぅ隼人!彼女さんとのデートの最中悪かったね!」


 ニコニコといたずらを成功させた幼児のようなあどけない笑顔を見せる少女。その口ぶりから隼人とは随分親しげだが・・・・・・。


「違うよルウ姉。そんなこと言ったら紗菜が迷惑するから……」


「・・・・・・」


 “デート”という単語に反応して金魚のように顔を赤らめてしまう紗菜。やはり傍からはそう見られていたのだ。


「でも隼人くん、ボクもそうとしか見えなかったけど」


「テルもからかうな」


 そういって三人で笑い合う。紗菜は顔を真っ赤にして口を金魚のようにパクパクさせていたが……。


「あ、あの、お二人はごきょうだいなんですか?」


「そだよ~」


 パーカーを着た少女は小学生にしか見えないので、傍目には歳の離れた兄と妹にしか見えないのだが……。


「紹介するよ。この二人が柏葉ルウとテルの姉弟コンビ」


 小学生にしか見えないほど幼い容貌のルウが姉で、背の高いテルが弟だという。なおルウは三年生でテルは二年生である。


「そ、そうだったんですか・・・・・・」


「そしてこの二人こそが、鉄十字航空高校が誇る急降下爆撃のトップエースだ」


 鉄十字高校は鵙航空高校と並ぶドイツ系の機体で固めた学校で、全国大会でも上位の常連校。昨年は見事に夏の全国大会で優勝を果たし、今年も連覇が期待されていた。


「あ、あの……。そんな凄い人がどうしてこんなタイミングで?」


 紗菜の疑問は当然である。夏の全国大会は航空戦競技の二大大会であり、三年生のルウにとっては事実上高校生最後の大会なのだから、当然自分たちの調整を行っているのが当然だからだ。


 しかし柏葉姉弟はあっけらかんと理由を教えてくれた。


「そりゃあ団体総合前提で急降下爆撃目指してるの有望株が出てきたって聞いたからに決まってるじゃん!」


「え?!」


「野分っちにも聞いたらさ、辰星紗菜は期待していいって太鼓判だったからねぇ」


 ユーライアスの野分部長を気軽にあだ名で呼ぶ間柄なので、ルウは野分とは当然面識はあるのだろう。


「それじゃあ行こうよ。時間勿体無いし」


「こっちをおちょくるためにフェイクしといてよく言うよルウ姉……」


 三人で笑い合い、紗菜は未だに目をぐるぐるとさせていた。


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