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第六話 赤き彗星の開眼! B

「それじゃあ担当を改めて決めるよ」


 今回の増員を受けて、新たなメンバーに任せる機体や配置が決められた。


「プログラミング部のみんなは視力に問題があるから、高射砲をお願いする。装填は自動だから配置と照準、そして発射を頼む」


『了解です!』



「喫茶同好会のみんなは、うちで一番大きな飛行機をお願いするよ」


『うぃ~~っす!』


 喫茶同好会には雁の巣が保有する最大の機体であるアブロ ランカスター爆撃機を任せることに。


「対空砲は重要ですよね」


 手芸部の面々はしみじみ語る。ユーライアスとの練習試合の大きな敗因は地上から対空砲火を行う人員が欠如していたからだ。


 航空戦競技での対空砲の砲弾の装填は協会が許可した自動装填装置の使用が認められていた。そのため装填に体力を使う事はないのだが、その他は自力で行わねばならないので、プログラミング部が適任と判断されたのだ。


「喫茶同好会にはうちで一番大きな爆撃機を任せるんだ……」


「ああ。目標目掛けて一斉に小型爆弾を散布してもらったりするつもりだ。それなら精密に狙わなくてもいいからね」


 エンジンを四基装備した大型爆撃機は、その搭載力と防御力を活かして敵陣に殴り込み、相手ゴールや対空砲をなぎ払うような戦法で用いられる事が多いという。命中精度よりも確率を重視するのだ。


 航空戦競技において精密爆撃はもっぱら急降下爆撃が担っているのだが、以前から触れているように急降下爆撃の選手たちは、スコアが稼ぎ難い団体総合に参加する意欲が乏しく、団体総合に参加する学校は軒並み精密爆撃の要員を確保するのが困難な状況となっていた。


 その打開策として多くの学校が選んだのは、戦闘機から転換しやすい戦闘爆撃機要員の増強であったり、命中精度を問わずに多数の爆弾を投下することで目標を粉砕できる大型爆撃機の増強であった。


 そして雁の巣は白紙同然からのスタートであるため、初心者ばかりという大きなマイナスはあるが、その分、型に囚われずに自由にスタイル設計が行えるという強みがあったのだ。


 他にもオーバーホールを終えて、完全に使用可能になった機体の紹介と、担当が発表された。


「この水上機は瑞雲。零式水上偵察機と同じくボート部にお願いすることになる」


 瑞雲は現在ボート部が任されている零式水上偵察機と同じ水上偵察機である。しかし、偵察機と爆撃機の統合が図られた機体でもあり、無改造で250kgの装備が可能であり、急降下爆撃を行えるようダイブブレーキまで装備されていた。そればかりか空戦まで想定した武装、装備もなされており、航続距離も長いことから、航空戦競技で使用可能な水上機の中ではトップクラスの性能を誇っていた。


「瑞雲の性能を引き出すのには時間が掛かると思うけど、発揮できるようになれば作戦の幅がもっと広がるんだ」


「任せとけよ!幽霊部員引っ張り出して、どっちも同時に使えるようにしておくからさ!」


 ボート部の櫂部長が胸を叩く。操縦はともかく見張りなら誰でも大丈夫と言う。


「他にも大先輩たちが残してくれていた機体の整備を進めているんだ。」


「戦闘機だけでなく、偵察機や爆撃機はもちろん水上機だって組み込めるのは、余程大きなところでないと不可能だけど、俺たちにはそれができる!」


「他にも紫電改、疾風、彗星、流星がオーバーホール中で、他にも隠し玉はあるんだ」


 たくらみ事をしている子供のように笑う隼人。この雁の巣は以前盛んだった時代の機体は売却せずに全てパーツに分解されて保存されていたことと、その前後で統廃合した際に入手した機体もあるので、他校が保有していない特殊な機体が眠っていたというのだ。


 かくして雁の巣の航空戦競技部は、ユーライアスとの練習試合を経て、また一歩全国大会を目指せる体制を整えていた。


 そして紗菜もまた、自ら選んだ急降下爆撃機乗りの道を着実に進んでいたのだが……。


 その日の放課後。日が随分傾く中、T-6テキサンが不安げなく滑走路に舞い降りた。


「ふぅ」


 機体を操縦していたのは紗菜。訓練機での講習過程を順調に終え、ついに次回からは本格的に九九式艦上爆撃機乗れるようになったのだ。


 そこへ隼人が駆け寄って来て尋ねる。


「紗菜、今度の土曜日は大丈夫か?」


「うん、大丈夫だけど」


 隼人が週末の予定を尋ねてきたが、彼が良くも悪くも部活一筋なのを承知していたので、紗菜も特に身構える事はなくなっていた。


「実はさ、急降下爆撃の指導員に来てもらえることになったんだ」


「本当に!?」


 それを聞いて喜ぶ紗菜。実のところ雁の巣は競技から遠ざかって久しいこともあって急降下爆撃の専門家がおらず、このままではマニュアルだけを参考に我流でやらねばならないかもしれないと、皆で危惧していたところだったのだ。


「だけど向こうの都合、どうしても土曜日しか無理だから、本当に一日だけの指導になるけど」


「一日だけでもきちんした人に教えてもらえるんだったら」


「じゃあ土曜日、予定空けておいてくれ」


「うん!」

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