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第六話 赤き彗星の開眼! A

 ユーライアスとの練習試合を終えた翌週。隼人は全員を前にある事を宣言した。


「八月に開催される夏の全国大会に出場するぞ!」


 その宣言に皆がざわめいた。


「今の時点で参加に必要な機数はすでに満たしているから参加可能だ」


「よ、予選は?」


 手芸部のチャコの質問に堂々と答える隼人。


「団体総合は参加校自体が少なくなってるから予選自体が無いんだ」


「でも出るだけの実績作りなの?」


「出るからには勝つ!俺たちなら勝てる!!」


「何だか知らないけど、とにかく凄い自信だお!」


 ボタンの言葉に皆で爆笑する。


「あと二ヶ月だけど、みんなの技術向上、追加メンバーの確保と教育で立派に戦えるようになる!」


『おおー!!』


 ユーライアスとの練習試合では惜しくも敗れた雁の巣の面々だが、相手が一軍で無かったとはいえ有力校相手に戦えるという自信を与えていたのだ。


 こうして隼人たち航空戦競技部は改めて大々的に部員の募集と各部への協力参加を呼びかけた。これまではほぼ岩橋兄妹たちだけの呼びかけだったが、練習試合後からは園芸部をはじめ、他の協力者たちも積極的に勧誘に協力してくれるようになっていた。


「空戦部の活動に協力して欲しいんだお!」


「飛行機に乗らなくても、空に向って大砲を撃つだけでもいいんだよ!」


「タダで合宿!自分たちの活動を広めるチャンスありありなんだよ!」


 熱心な活動の結果、参加を希望する部活や愛好会が名乗りをあげるようになっていた。


「プログラミング部、参加します」


 プログラミング部はおとなしい感じの男子たち。若久、梶原、豆谷、倉谷の4人。


「ちーす。喫茶同好会でーす」


『おねがいしまーす』


 喫茶同好会は喫茶店を巡ってはおしゃべりに興じるという目的の同好会で、今年の新入生が立ち上げたもの。こちらは、モカ、ルフナ、リゼ、カマイ、チャイの5人でとても賑やかだ。


「壇光一、壇征二、戦闘機志望で来ました!」


「よろしくお願いします」


 一年生の男子二人は双子の兄弟。一卵性というが、兄の光一は活発的で弟の征二は穏やかな様子。なお参加理由は……。


「オレ、笹井先輩からの指導を希望っす!」


「ちょっと、光一兄さん……」


 兄の光一は勧誘活動中の純に一目惚れして参加を決意。弟の征二もついでに連れてきたという。


「ごめんね岩橋さん……」


 尚江に申し訳なさそうな顔をする弟の征二。征二と尚江は同じクラスだという。


「いいんじゃないかな。だって戦闘機乗りの男子って、ほとんど女子目当てだもん。お兄ちゃんとか鉄也さんが例外なんだよ」


「そ、そうなんだ……」


 航空戦競技の戦闘機乗りの男子は、かなりの割合で女子にモテることを目的にしており、高校トップレベルの選手でも競技で撃墜したスコアよりも、口説き落とした女性の数の方を誇る者さえ珍しくないと良く言われているほど。


 他は真逆で異性どころか他人に殆ど興味を示さない鉄也のようなタイプが少数。交流の幅が広いのに、交際目的で口説きを行わない隼人は例外中の例外、珍獣扱いされていた。


『隼人のヤツ、あれだけ大勢女の子集めておいてまだ誰にも手を出してないなんて、もったいねえっていうか、やっぱ変だぜ……』


 そんな話が流れている事を隼人たちも知っていたが、特に気にする事無く笑い飛ばしていたのだ。


「はいはい。それじゃあ征二くんは私が指導してあ・げ・る」


「は、はい……」


 純は弟の征二にウインクして個別指導をしてくれると宣言。どぎまぎしてしまう征二だが兄の目線が槍のように突き刺さる。しかしそれを確認して純は光一に告げる。


「私一人で二人も面倒見れないから、光一くんの方は鉄也が指導してあげて」


「わかった」


「えげっ?!」


 大きく口を開けて呆然とする光一の肩を叩く鉄也。


「言っておくが戦闘機は過酷だ。覚悟しておけ」


「う、うぃっす!」


 こうして兄の光一は鉄也の指導を受ける事が決まった。鉄也は必要な事しか指導しないが、少なくとも光一が望んだ純からの指導ではない。


「それじゃあ征二くん、これから私の戦闘機講習開始よ。しっかりついてきて頂戴」


「は、はいっ!」


(ちっくしょう。征二ばっかり羨ましいぜ……)


 ちらちらと羨望の眼差しを弟に向ける兄だが。


「雑念は捨てろ。相応の実力を付けない限り“獲物”は落せん」


「う、うぃっす!」


 こうして壇兄弟は早急な戦力化を目指して高密度の訓練を受けることになった。


「助かったねお兄ちゃん。二人も戦闘機希望で来てくれるなんて」


「ああ。本当に助かる」


 嬉々としていた岩橋兄妹に紗菜が尋ねた。


「そういえば新しく戦闘機の人を増やしたいって隼人くんは言ってなかったよね?」


「ああ。戦闘機は空中戦しなきゃいけないから、気軽に戦闘機に乗ってくれなんて言えないんだよ。部活の掛け持ちでするには厳しいからさ」


 戦闘機は確かに花形であるが、全ての状況に一人で何もかも対処しなければならない上に、過酷な重力に襲われる空戦機動を行わねばならないため、とても気軽にできることではないという。


 それ故に隼人たちは、参加を求める際にも各部からの協力者たちにも、紗菜に対してさえも、戦闘機に乗って欲しいとは一度も頼んだことがなかったのだ。


「あの人たちは良かったの?」


 その問いにゆっくりと頷く隼人と尚江。


「辰星先輩、壇くんたちは動機が動機だから大丈夫ですよ! (きっと)」


「俺が見る限りは兄弟揃って典型的な戦闘機乗りタイプだから」


『後は根性!』


 後は根性と声を揃える岩橋兄妹の話を聞いて思わず苦笑いが出てしまう紗菜だった。

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